京都・左京の南禅寺に「幻のツバキ」よみがえる 昭和の高僧、生前愛したゆかりの株

「天倫寺月光」の花

 臨済宗南禅寺派元管長で、米国の大学で禅の講義をするなど国際的に活躍した禅僧の柴山全慶老師(1894~1974年)が生前に愛した希少なツバキが、京都市左京区の同寺にある旧宅の庭に「帰郷」した。生前に本人から託された株を武田薬品京都薬用植物園(同区)が育てており、没後50年に合わせて移植した。

 柴山老師は南禅僧堂の師家(しけ)(指導者)を務め、1959年から亡くなるまで管長を務めた。福島慶道・臨済宗東福寺派元管長(1933~2011年)ら高僧を育てた一方、ツバキ愛好家としても知られ、管長時代に暮らした境内の「香雲庵」の庭には現在も数十本が植えられている。

 生前に収集した品種の中には松江市の天倫寺にのみ伝わるとされた「天倫寺月光」があり、1974年に同寺から譲り受けた穂木を、ツバキ栽培で著名だった同植物園に託した。

 だが開花を見ることなく死去。5年ほどたって開花期を迎えた天倫寺月光は、園から香雲庵に移植されたが、いつの間にかなくなったという。一方、園では残った株が成長し、繁殖に成功した。

 転機は2018年。孫弟子にあたる南禅僧堂師家の日下元精さん(67)が香雲庵を離れとして使ううち、天倫寺月光との関わりについて記された文書を発見。植物園を訪ねて実物を確認し、園にある数株のうち主要な1株を五十回忌に合わせて香雲庵に移す計画を立てた。

 6月末の五十回忌法要の前に作業が行われ、縁側からよく見える庭の一角に移植された。11~3月にごく小さく素朴な花を咲かせるといい、日下さんは「節目にあらためて多くの縁を感じることができた」と喜んでいる。

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