社説:彦根城と世界遺産 登録の意義問い直す契機に

 滋賀の“宿願”実現の一歩となるのだろうか。

 政府は本年度、日本から国連教育科学文化機関(ユネスコ)への世界文化遺産候補の推薦を見送る一方、彦根城(彦根市)については、ユネスコの諮問機関による「事前評価」制度を活用して登録を目指すとの方針を新たに示した。

 事前評価を経れば、世界遺産登録は最速でも4年後の2027年になるという。評価結果次第では、事実上の「門前払い」になる可能性もある。

 地元では、専門家による予備審査が入ることを肯定的に捉える意見がある。一方で、国内推薦がさらに先延ばしになることや、登録そのものの見通しを不安視する声も上がる。

 登録に向けた運動を推進してきた滋賀県や彦根市などは、取り組みの再構築が求められよう。彦根城を世界の宝として登録する意義を改めて問い直し、保全や継承の機運を高める契機としてほしい。

 事前評価は、各国から提出される推薦書の質を高めることを目指し、今年から導入された。

 文化遺産については申請に基づき、遺産登録にふさわしいかどうかを勧告する本審査と同じく、国際記念物遺跡会議(イコモス)が約1年をかけて評価する。技術的、専門的な助言は、本審査に提出する推薦書の改良に生かすことができる。

 県や彦根市は昨年度、彦根城は江戸時代の安定した統治体制を今に伝えている建築物だとする内容の推薦書素案をまとめている。だが、国の文化審議会は「近世城郭が約180存在した中、なぜ彦根城がその代表になるのか」といった説明が必要だと課題を指摘している。

 国内では、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本両県)が諮問機関の中間報告で不備を指摘され、いったん推薦を取り下げて練り直し、18年に登録を実現した例がある。

 より早い段階から諮問機関が関与する事前評価で、確実な登録につなげられるとの見方がある。彦根城も、専門家の視点が、推薦に向けた課題解決の糸口になることを期待したい。

 彦根城は、国内候補となる暫定リストに記載されて31年になる。この間、各国から推薦が相次ぎ、世界遺産の登録数は文化遺産だけで900件に達した。自然遺産なども合わせた総数は1157件に及ぶ。

 近年は、観光や地域振興など大きな経済効果を期待した推薦が増えており、ごみや混雑など地域との摩擦を生む観光公害も問題化している。

 世界遺産の目的は、人類共通の財産を保全することにあるのを忘れてはなるまい。登録への取り組みを通し、彦根城とともに暮らす私たちも、その価値を再認識し、次世代に伝えていく思いを強くしたい。

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