“既婚のステータス”は便利? 嘘をついて愛を求めた女性の末路

既婚者と肉体関係を持つ不倫は、極端にいえば法に触れる問題を抱えた関係で、まともに恋愛を楽しみたい人ならまず選ばない道でもあります。

「既婚」というステータスは、すでに愛する配偶者がいてほかの異性とは深い仲になりません、という社会的な立場を示します。

それを逆手に取って男性と関わろうとしたある女性は、みずからが矛盾に縛られ、欲しい愛情を得ることはできませんでした。

既婚と嘘をつくことにはどんなリスクがあるのでしょうか。

「既婚者だ」と嘘をついた女性…その真意は?

既婚者の設定だったら気楽に付き合える?

Aさんは37歳、独身ですが既婚者と嘘をついてある男性を「口説いて」いました。

その男性は「一応、男友達のポジションです」とAさんは言い、聞いてみれば何年も片思いをしている相手であり、恋愛関係の寸前までいくも「お付き合いに対する価値観がどうしても合わなくて」衝突し、つながりが切れては戻ることを繰り返していたそうです。

そのときも、一年半ほど男性と連絡を取り合わない期間があり、久しぶりに電話をしたのはふたりの共通の知人から要件を頼まれたことが理由でした。

「ふと、私が既婚者だったら、付き合う付き合わないの今までの喧嘩を避けられるかな、と思いました。

彼は自分の時間が優先で彼女は空いた時間に会えれば十分と考えていて、私は平日に会えなくても休日はゆっくりふたりで過ごしたい派、日曜日まで用事を入れて私と会う時間を減らす彼とは、幸せなお付き合いはできないなと振り返りました。

私が既婚なら付き合うという選択肢がないので、お互いに都合のいい存在になれたらいいか、とそのときは思ったのですね」

Aさんはため息をついて言い、男性には「私、結婚したから」と電話で真っ先に伝えたそうです。

男性は「そうなんだね」とショックを受けた様子で、それを見て「まずは満足しましたね……」と、Aさんは暗い表情で視線を落としました。

「既婚者」からの一方的な関わり

これまで、お互いに恋愛感情を認めながら正面からつながることができなかったふたりであり、Aさんが既婚のステータスになったことで、交際の可能性は一気に消えたといえます。

ところが、Aさんは「これで彼を口説ける」と思ったそうで、先のない関係だからこそ「自由に好きでいられる」と考えます。

男性のほうは以前離れたときと変わらず、彼女もいなければ親しくしている女友達もいない状態で、Aさんと交流が戻ってまた気安く連絡を取り合う仲になりました。

「あなたのことは好きだけれど、既婚だから付き合えない」。男性に何度もこう繰り返しながら、Aさんは休日のたびにデートに誘ったり平日もLINEでメッセージを送ったり、密な関わりを持とうとします。

男性のほうは「旦那さんのいるAさん」に戸惑いながらもメッセージには返事をくれて休日には食事に行ってくれて、「昔のように馴れ馴れしくできないもどかしさが見えて、それはちょっと楽しかったですね」とAさんは感じたそう。

「旦那さんは大丈夫なの?」「問題はないの?」と約束のたびに男性が尋ねてくることが、Aさんには新鮮でした。

「夫の設定は、私と同じ正社員で同じくらいの収入、優しくて束縛しない人、と彼には伝えていました。

前に住んでいたアパートからは引っ越して今は夫とふたり暮らしとも話していて、具体的な場所などは言わなかったけれど、彼にはそもそも足を向けたい場所でもないからどうでもよかったと思います」

夫と幸せに生活していると嘘の報告をしながら、一方で男性に向ける恋心には蓋をしない自分が男性の目にどう映っていたか、そのときのAさんは考えていませんでした。

断られて「一線」を引かれてしまい…

以前は付き合っていなくてもベッドを共にすることは当たり前だったというふたりですが、このときは「結局、一回も寝ませんでした」とAさんは肩を落とします。

日曜日のお昼、雰囲気のいいイタリアンのお店で美味しい食事を楽しみ、男性の車に戻りながら「ふたりきりになりたいな」と以前のような調子でAさんが誘っても、男性は「無理だろう」と素っ気なく答え、ホテルに行くことはなかったそうです。

「そのあっさりした態度が不満でした」と話すAさんは、「どうせバレないし、大丈夫だよ」としつこく男性に肉体関係を持ちかけたそうです。

そんなAさんに対し、「君は良くても俺は後で慰謝料を請求されるようなことは嫌だから」と男性は断り、むくれるAさんを見て「旦那さんは大変だな、君みたいな人が奥さんで」と皮肉めいたことも口にしたといいます。

それでも男性はAさんからの食事の誘いなどは断ることはなく、昔と変わらず空いた時間を自分に差し出してくれることが愛情の証だとAさんは思っていたそうです。

約束はするくせにホテルに誘えば断ることについて、「どうして私と会うのよ」と詰め寄ると、「そのときはさすがにバツが悪かったのか、下を向きながら会いたいからと小さな声で答えていましたね」とAさんは振り返ります。

一線を引きながら食事に行く以上の親密さを頑なに避ける彼に、Aさんは窮屈さを感じながらも「好き」と言うのを止められず、男性が苦しそうな表情で「俺も」と答える姿を見て、ようやく溜飲を下げるような状態でした。

やっと気がついた彼の本心

男性と会っているとき、Aさんはよく「私が独身だったら」と仮定した話をしていたそうで、「そりゃ俺と付き合ってもらえるように口説く」と答える男性を見ると安心し、一方で「そんなたられば話はしたくない」と眉をしかめる様子に物足りなさも感じます。

「本当は独身だよ、と何度も打ち明けようとしました。

彼も『結婚したのは嘘じゃないのか』と尋ねてくるときがあって、毎週末デートに誘う私を見れば、夫の存在を感じないのも今はわかります。

それでも、私が独身だとわかったところでこの人とは私の望む交際はできないのだ、と今までのことが頭をよぎると、既婚のままで彼に求められるほうがいいのかも、と思いましたね……」

彼と恋人関係になるのなら自分が我慢する一方になる、という思い込みが、当時のAさんにはあったそうです。

それなら既婚でも独身でも変わらない、また苦しい思いをして別れるくらいなら、肉体関係は持てなくても今のまま彼の好意を引っ張るほうが、自分は幸せかもしれない。

そう思ったAさんは、車のなかで手を握り合う瞬間があっても「本当は独身」という真実を口にしたいのをこらえ、「既婚でも彼に求められる自分」に酔っていた、といいます。

以前より距離のあるつながりでも、「LINEで好きと送れば彼も同じように返してくれて、これはこれで安定しているのでは、と勝手に思ってしまったのですね。先のない関係だけど、彼も今の状態で満足しているのかも、と何も聞かないままでした」と、Aさんは彼の気持ちを確認しませんでした。

そんなふたりのつながりが崩れたのは、あるとき彼から「やっぱりこんな関係はつらいから、もうやめたい」と突然メッセージが届いたことがきっかけでした。

「君が何を考えているのかわからない、と書いてあって、旦那がいながら別の男に好きだと言えるのはどうしてか、俺とは今後どうしたいのかって、初めて長文をもらいました。

彼が『たられば話は嫌いだ』と言うのに私はずっと『独身同士だったら』と話題にするのが止まらなくて、それで喧嘩になった次の日のことです。

それを読んだとき、ああ彼は苦しんでいたのだな、とやっと気が付きました」

矛盾は自分に返ってくる

「夫がいながら自分に好きだと言う女性を、信用はできませんよね」

Aさんはぽつりとつぶやきます。

「そうだね」と返すと、「もし逆の立場だったら、こんな人最低だし絶対に会わないと思いました。いくら好きでも、配偶者がいるくせにほかの人を口説くって、付き合う気になんかなれないです」と、強い口調でAさんは答えます。

まともな恋愛観を持っているのならそう思うのは当たり前で、親しくなるほどに、好きだと言われるほどに、男性がAさんに対して不信感を持つのは避けられません。

本当は独身だと真実を告げるのを回避し続けた結果、男性はAさんとのつながりそのものに嫌気が差し、離れていきました。

「そのとき、既婚と嘘をついてごめんと言うことも考えたのですが、彼の『何も信じられない』という言葉を読んで、もう遅いと感じました。

一緒にいて好きだと言うくせに『夫がいる家』に帰る私をどんな思いで見送っていたのか、想像したらつらかったです」

ここで本当のことを言っても、今度は「どうして嘘をついたのか」、「俺の気持ちを弄んだのか」と彼に責められることは目に見えていて、そのうえで交際になど発展する可能性は低く、「もうダメだ」とAさんははっきり感じたそうです。

「お互いに好意があれば、こうなるのはわかっていたのでは」とそっと尋ねると、Aさんは「彼がまともな関係を求めるなんて、思いませんでした。これまでも自分の状態を変えることなんてまったくしない人で、私が既婚でも関係ないだろうと考えていて」と、苦しそうに答えました。

彼の本心はどこにあったのか、既婚者となったAさんとどうなりたかったのか、本当のことはわかりません。

それでも、LINEで送られてきた「君が好きな俺の気持ちはどうすればいい」という言葉は、彼がふたりの状態に苦しんでいた紛れもない証拠であり、彼自身進むべき道が見えなかったのでは、と感じました。

矛盾は相手を苦しめるのと同時に、自分からも身動きを奪います。

「ただ謝ることしかできませんでした」とうなだれるAさんは、その後、男性とはいっさい音信不通だそうです。

関係に無責任でいようとするから愛されない

独身なのに、既婚だとあえて嘘をつくことで相手の愛情を引っ張ろうしたAさんは、その結果何も手にすることなく男性を失いました。

既婚と言いながら配偶者ではない異性に好意をぶつける姿は、結婚関係にもその異性との関係にも無責任でいたい証拠とも受け取れます。

結婚関係が実際は嘘であっても、その真実を知っているのは自分だけであり、相手は「既婚者から好意を向けられる自分」にも「その既婚者に好意を向けてしまう自分」にも苦しみます。

今回のケースは、男性側がその矛盾に耐えきれずに逃げ出したともいえますが、そう仕向けたのはAさんであり、Aさん自身もまた、大きな葛藤から逃げられずにいます。

Aさんが抱える葛藤とは、男性を好きな自分に素直になれず「信用できない」と言われてしまったこと、真実を告げたいけれどその後に受ける責めが怖くて結局は男性を失うことになる可能性に怯むこと、「自分のしたことで自分が苦しむ現実」です。

本当に男性のことが好きであれば、そのつながりに責任を持って関わろうとする姿勢こそが相手の心を開きます。

自分だけが安全地帯にいて相手を一方的に翻弄するようなやり方は、関係に無責任なだけでなく相手の気持ちをないがしろにするのと同じ。

これまでの、「付き合う寸前でうまくいかずに縁が切れる」状態を見れば正面から向き合うのが怖くなる気持ちはわかりますが、それでも、その自分が相手に与える影響をきちんと想像しないと結局はすべてを失います。

Aさんは、「時間を置いて、彼には本当のことを話そうと思います」と最後に顔を上げて言いましたが、その勇気が、今度こそふたりの関係を健全な愛情のもとで育てていくきっかけになればいいなと思います。

「既婚のステータス」を独身者との恋愛に利用することは、結婚が真実であれ嘘であれ、相手とまともな関係を築けないという点で大失敗といえます。

独身者だからこそ不倫のような不毛な関係を避ける人は当然に多く、先のないつながりから逃げ出すことを、既婚のステータスを利用する側は止められません。

恋愛で何よりも肝心なのは、相手を好きな自分に胸を張る自信です。

それを持たずに好きな人とうまくいくことはないのだと、改めて考えたいですね。

(mimot.(ミモット)/ 李丘)

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