<社説>32軍壕保存公開 県、那覇市で確実に実現を

 県が「第32軍司令部壕保存・公開基本方針」を策定した。体験者の証言を収集し、史実に基づき、正確に沖縄戦体験を次世代へ継承する「最後のタイミング」との認識を示し、司令部壕の保存・公開を「県の歴史的な取り組み」として進める考えを表明した。 「アジア・太平洋地域における平和発信拠点の形成および、沖縄戦の実相と教訓の次世代への継承を進める」という基本理念を具現化するため、32軍司令部壕の保存・公開を確実に実現してほしい。今回の方針策定はその重要な一歩となる。

 「保存・公開方針」は司令部壕保存・公開検討委員会が今年3月にまとめた提言を踏まえた内容だ。既定通り、5カ所存在するとされる坑口のうち、守礼門近くにある第1坑口と、首里金城町側の民有地にある第5坑口の調査や整備を優先的に進める。VR技術を活用した公開も検討対象とする。

 今後、重要となるのは32軍司令部壕の文化財指定であろう。「保存・公開方針」は第32軍の軍事的中枢施設であり、沖縄戦を語る上で不可欠な戦争遺跡として史跡などの文化財指定に向けて取り組むことを明記した。首里城が再建される2026年を指定のめどとしている。

 ガマ(自然壕)や防空壕、日本軍陣地跡は沖縄戦の実相を物語る重要な戦争遺跡としてさまざまな調査研究がなされてきた。残念ながら老朽化や開発行為によって戦争遺跡が徐々に失われている。文化財指定は戦争遺跡の保存にとって有効な手段である。

 第32軍司令部壕は沖縄戦を本土決戦を遅らせるための時間稼ぎとして戦った「戦略持久戦」の拠点である。さらには住民に多大な犠牲を強いた日本軍南部撤退を決定した場所でもある。「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を後世に伝える最重要の戦争遺跡であり、文化財指定は不可欠である。

 沖縄では全国に先駆けて南風原町が1990年、沖縄陸軍病院南風原壕を文化財指定した。その経験を生かしながら32軍司令部壕の文化財指定を実現してほしい。

 方針に基づき、推進体制を強化するため県8課、那覇市3課が参加する「第32軍司令部壕保存・公開推進連絡会議」を18日付で設置したことも重要だ。

 県と那覇市の平和、文化財行政、歴史資料収集、遺骨収集、公園管理、観光振興などを網羅した組織となる。さまざまな分野から32軍司令部壕公開の在り方や課題を検討する場となるはずである。双方の経験や蓄積を生かした具体的な議論を求めたい。

 次年度には具体的な整備範囲や方法を決定する基本計画を策定する。安全性や財政面についても一定の方針を打ち出す必要がある。保存・公開に向けた課題は多いが、平和発信拠点の形成に向け、全力で取り組んでほしい。

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