値上げせずに利益率が改善!サイゼリヤ「値上げしない」宣言後の決算に注目

娘たちが小さい頃は月に2回、いやそれ以上に通っていた近所のサイゼリヤ()。今でもたまに訪れますが、いつ行っても小さい子ども連れのファミリーで賑わっています。人気の理由は、言うまでもなく“安さ”と“おいしさ”です。この2つを両立させるのは、ただでさえ難しいのに、ここのところの原材料高、光熱費高、人件費高にも関わらず値上げせずに踏ん張っているサイゼリヤは、わたしたち庶民の味方。今年、2023年5月に行われた決算記者会見では「当面は値上げしません!」と宣言しました。

とはいえ、さすがにこれだけ物価が上昇している中、さすがのサイゼリヤといえども、値上げせずに業績を改善させるの無理なのでは? 今なら値上げも受け入れられそうだし、意地を張らずに値上げすればよいのに、と正直思いました。


値上げせずに利益率が改善

値上げしない宣言後に出した直近の2023年8月期第3四半期決算を見てみましょう。

画像:サイゼリヤ「2023年8月期 第3四半期決算短信」より引用

①売上高132,103(百万円)、②前年同期比+23.1%、③営業利益3,568(百万円)、④前年同期比+236.3%と大幅増収増益。営業利益率は、前年の第3四半期は1%だったのに対し、2.7%に改善されています。この1年の原材料や光熱費の上昇を考えたら、驚異的な数字です。

なぜサイゼリヤは、値上げせずに利益率を改善させられたのでしょうか?

まず1つ、わたしたち消費者目線でも気づくのは、オーダーの取り方です。以前は、店員さんを呼んで口頭で注文をしていましたが、コロナになって以降、メニューの番号を紙に書いてそれを店員さんに渡す方式に変わりました。これによって、店員さんがテーブルについている時間が短縮され、業務効率が改善されたそうです。

とはいえ、「他店舗の多くが採用しているタッチパネル方式のほうがいいのでは?」と、疑問に思わなくもないですが、リピーターが多い同社では、顧客との親密性が重要なため、接客部分はなるべく省きたくない、という方針のようです。ただこれについては、最新の会社四季報夏号によると「一部店舗でモバイル注文、セルフレジ実験中」とありますので、今後はDX化が進むかもしれません。

2つ目は、利益率の高いアジアでの店舗数が増えていることです。決算説明資料によると、第3四半期時点で、国内の店舗数は前年度1,077店舗から1,058店舗と約20店舗減少、一方アジアでは483店舗と前年度から7店舗増加しています。第3四半期決算の決算短信には「中国政府のゼロコロナ政策による度重なるロックダウンの影響はあるものの、新規出店を継続的に進め、店舗数が増加した」とあります。

値上げはしないけど、残念なお知らせも

もともとサイゼリヤは、開発から物流、小売まで自社で管理しているため、安くても利益が稼げるビジネスモデルです。たとえばグラスワイン100円という驚異的な値段は、商社を通さずイタリアから直輸入してからこそ実現できる値段です。

また、看板メニューのミラノ風ドリアで使われるホワイトソースは、オーストラリアの現地工場でまとめて生産し、コストを抑えています。料理は工場で加工し、店舗での作業をミニマムに抑え、人員が少なくても運営できるよう、徹底的な効率化が測られています。

ただ、ここまで値上げせず踏ん張ってきたサイゼリヤですが、7月10日(月)に今まで無料提供していた粉チーズを有償化(税込100円)すると発表しました。残念ではありますが、インフレが進行している現状においては止むを得ない、との反応が大半です。むしろ、今まで無料だったほうがおかしいですよね。

個人的には、メニューの値上げをしても、客足が落ちることはないんじゃないかと思います。血の滲むような企業努力をした上での値上げについて、わたしたち消費者は一定の理解を持てるくらいのインフレマインドはついてきたのではないでしょうか?

意外な株価の反応

ここのところ小売の決算発表が続いていましたが、価格転嫁したことによる利益率の改善が評価され、株価が上昇するパターンが多く見られました。そのため、頑なに値上げをしないサイゼリヤはあまり評価されないのではないか、と予想していましたが、実際には真逆の反応でした。決算発表翌日は+14.9%と急騰し、その後も値を保っています。

画像:TradingViewより

日足チャートでみると、ほぼ1年にわたってきれいな上昇トレンドを形成しており、まったく危なげない様子で、今後も上昇しそうな雰囲気です。

ただし、第3四半期決算の営業利益の通期予想に対する進捗率は58.5%と、決してよいわけではありません。ラスト3ヵ月で利益を稼ぐ季節性があるわけではないので、予想値に届かない可能性も念頭に置いておくべきです。第2四半期決算のタイミングで下方修正をしていることも確認しておきましょう。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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