佐賀市の老舗着物店「鈴花」に日本DX大賞 平均年齢60代でアプリ開発 画像基に着こなしや手入れ相談

アプリで顧客の所有している着物を確認しながらコーディネートを提案する販売員=唐津市の販売店・白水

 佐賀市の老舗着物店「鈴花」が、優れたDX(デジタルトランスフォーメーション)の事例を表彰する「日本DX大賞」のUX(ユーザーエクスペリエンス)部門の大賞と、スポンサー賞の船井総研デジタル賞に輝いた。従業員と顧客の高齢化が進む中で、開発したアプリを通じて顧客の着物の品質管理や、着物の悩み相談にも対応し、従業員同士の情報共有化を進め、DXで顧客の満足度向上に努めたことが評価された。

 日本DX大賞は、民間企業や自治体の優れたDXの取り組みを表彰・発信する国内最大級のコンテスト。UX部門では、ユーザー体験の創出や満足度向上への取り組みを審査した。同社は着物を売るだけではなくイベント開催など「体験」の提供にも力を入れており、アプリを通じて顧客と会社の新たな関係性を築く試みが認められた。

 「タンスにしまった着物の把握が大変」「クリーニングした着物をそのまま預かってくれないか」。顧客から寄せられていた要望に応えるため、2021年から新規サービスの構想を練った。22年4月に県のDXフラグシップモデルに選ばれ、支援やアドバイスを受けながら開発した。補助金なども活用し、ソフト開発や機器の購入を行った。

 6月にリリースしたアプリ「和服らいふ」は、顧客が所有している着物や帯、小物などの画像を保存し、一覧で表示する。同社でクリーニングした着物を一定期間保管する新サービスと連動し、着物の状態をアプリ上で把握が可能。画像を基に、スタッフに着こなしや手入れの相談もできる。

 鈴花は創業123年で、従業員と顧客の平均年齢はどちらも60代。販売員が接客を通して得た情報は、退職とともに失われていた。そこで、情報を集約・管理するための社内用アプリを内製で開発した。顧客情報が会社全体で共有されるようになり、担当の販売員が不在でも適切な接客が可能になった。集めたデータを分析することで、新たな商機にもつなげる狙いだ。

 デジタル化への抵抗が懸念される中、アプリ導入の機をうかがっていたという。森啓輔社長は「アプリを自分で入れられないお客さんは多いが、携帯に多くのアプリが入っている若者と違い、一度使い始めたら長く利用してもらえる」と強調する。システム課の井上司係長はアプリ内製のため一から技術を習得し、「DXと懸け離れて見える着物屋でもできたので、他の企業が取り組むきっかけになれば」と話した。

 同社は19日、佐賀県庁を訪れ、山口祥義知事に大賞受賞を報告した。(小島発樹)

日本DX大賞のUX部門で大賞を受賞し、授賞式でトロフィーを授与された鈴花の井上司さん(右)。左は審査員を務めたデジタルシフトウェーブの鈴木康弘社長(提供写真)

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