朝乃山、気迫の白星 左腕痛み残るも泣き言なし 「来場所につなげたい」

 多くのファンが左腕の状態を心配する中、朝乃山は力強く前に出て得意の形で白星を挙げ、不安を吹き飛ばした。「(取組が)終わったら痛いが、けがは自分のせい。痛みはだいぶ良くなり、動くようになってきた」。勝ち越しへ後がない崖っぷちの状況で、泣き言は一切言わない。気迫で白星をもぎ取り、「来場所につなげたい」と残り3日間に全てをぶつける覚悟を示した。

 取組前、支度部屋でまげを結ってもらっていた朝乃山は1点を見詰め、集中力を高めていた。左腕にはテーピングが施してあったが、気にするそぶりもなく入念に下半身の柔軟をこなし、土俵に向かった。

  ●「理想的な展開」

 翔猿との一番は右をねじ込むと、厳しく攻め続けて「理想的な展開」で制した。ただ、支度部屋に戻るとすぐ、付け人が左腕の患部に氷を当てタオルを巻いて固定。タオルの締め付け具合が気になり「弱い、弱い」と注文を付けた。けがの痛みは残るものの、「土俵に上がれば痛みは忘れる。最後は気持ちだ」と言葉に力を込めた。

 厳しい表情を見せていたが、勝ち越しの可能性を問われると、にこやかに「崖っぷちです」。「勝ち越しを狙ったわけじゃない。たまたまこうなった」と続けて記者を笑わせ、再出場のタイミングが偶然だったことを説明し、場を和ませる余裕も見せた。

 昨年の名古屋場所で謹慎から復帰し、1年間で幕内上位まで番付を上げた。年内三役復帰を目標に掲げて挑んだ今場所。左腕の負傷は無念だったことだろう。休みたくないという思いが強く「相撲を取れば悪化することもあるのは承知。リスクは分かった上でやっており、(腕のことを)言い訳にしたくない」と再出場に込めた覚悟を強調した。

 休場中もテレビなどで他の力士の取組を見続け、「早く相撲を取りたい気持ちが強かった」と焦っていた心境を明かした。

 再出場で勝利した朝乃山にはファンから大きな声援が送られ、名前入りのタオルが揺れた。期待の大きさは変わらず「自分を応援しに来てくれる人もいる。あと3日間、しっかり取り切りたい」と諦めない姿勢を強調した。

  ●勝敗関係なく「休みたくない」/一問一答

 ―右四つに組み止めた。

 自分の形になったからには前に出たが、左は切られてしまった。

 ―まだ左の力は伝わっていない。

 そうっすね。腰も高かった。もっと腰を落としていきたい。

 ―再出場で白星を挙げた。

 勝敗は関係なく、休みたくない気持ちがあった。腕は完治ではないが、最初の頃より動かせるようになった。自分の相撲を取り切りたい。来場所につなげたい。

 ―お客さんの歓声は。

 うれしかった。休場でがっかりするファンもいると連絡があった。ここまで動かせるなら覚悟を決めていきたいと、師匠に伝えた。

 ―思ったより相撲が取れたか。

 翔猿関が動いてくると思ったが、つかまえられた。

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