<社説>夏場の水難事故防止 「大丈夫だろう」は禁物

 県内の多くの小中高校は21日から夏休みに入る。新型コロナウイルス禍での行動制限が緩和され、4年ぶりの通常のレジャーシーズンの到来である。暑い日が続く中、海や川などに出掛ける機会も増えよう。自然との触れ合いは私たちの心に安らぎを与えるだけでなく、子どもたちにとっても普段味わえないような解放感や感動を与えて、豊かな心を育んでくれるものだ。 だが一歩間違えば、水場のレジャーは悲惨な事故につながりかねない。海や川に出掛ける機会が増える夏場は水難事故が頻発する季節でもある。安全に海水浴などを楽しむために心掛けるべきことや危険が迫ったときの対処法など、安全意識を高めることが必須だ。家族や地域で、夏休みの機会に水場の安全について意見交換してほしい。

 コロナ禍から観光も回復し、エメラルドグリーンの海を目当てに沖縄を訪れる観光客も多い。沖縄が悲しい事故の場所とならないよう、観光立県として観光客への注意喚起も図る必要がある。

 県警のまとめでは、ことし1月から6月末までに48件の水難事故が発生した。「死者・行方不明者」が観光客12人を含む21人となっている。発生件数が過去10年で最多だった前年同期より2人多い。

 事態を重く見た県警は6月30日、那覇市のうみそらトンネル換気塔(三重城)前緑地で水難事故防止運動出発式を開き、ライフジャケットの着用を重点的に呼びかけることを確認した。

 水難事故の犠牲者のほとんどはライフジャケットを着用していなかったことが背景にある。体を浮遊させる救命胴衣さえあれば、事故に遭っても生還できた事例もあったはずだ。人気のシュノーケリングなど海のレジャーの正しい知識と技能をしっかりと普及させるとともに、ライフジャケットの着用促進を図ることが課題と言える。

 自然は魅力にあふれるが、その力は到底人間があらがえるものではない。周囲をサンゴ礁に囲まれた沖縄の海岸では、離岸流が発生しやすいという特徴がある。第11管区海上保安本部が実施した体験会に本紙記者が参加したが、離岸流に一度のまれると、逆らってもどんどん沖の方に流されてしまい、自然の恐ろしさを実感したという。

 危険な生物の存在も忘れてはいけない。ハブクラゲやオニダルマオコゼ、ウンバチイソギンチャクなど、海には刺されると命に関わる恐れのある生き物も生息している。危険生物の生態を知り、近づかないようにすることが身を守ることにつながる。

 子どもたちを水難事故から守るためのポイントがある。救助員のいない場所での遊泳はなるべく避け、複数の大人たちで見守りたい。危険と隣り合わせの水場で「大丈夫だろう」は禁物だ。自然への感謝を忘れず、安全を最優先に夏の思い出をつくりたい。

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