立腹せずに

 7月24日は芥川龍之介の命日に当たる。ご存じの通り、自ら命を絶ったのだが、作家の内田百閒(ひゃっけん)は「河童忌(かっぱき)」という文章に〈芥川君の死因については…あんまり暑いので腹を立てて死んだのだろうと私は考えた〉と書いた▲何もそこまで、という気もするが、腹が立つほど暑かったのは本当らしい。お天気博士、倉嶋厚さんの本によれば、芥川の死の前日、1927(昭和2)年7月23日の東京は〈三十五、六度という体温並みの暑さ〉だったという▲それからほぼ100年、河童忌よりもずっと前に、最高気温35度以上の日が各地で続く。県内3カ所でも先日、猛暑日を記録した。梅雨が明ければさらに気が抜けない▲脇の下や首の付け根を冷やしましょう。持ち運び型の小さな扇風機や保冷剤を有効に使いましょう。外出を控え、クーラーを使いましょう…。年々、呼びかけが増えるように思えるが、まんざら気のせいでもないらしい▲近年は毎年のように、熱中症で亡くなる人が全国で千人を超える。政府は2030年までに、これを半分にする目標を掲げ、5月に実行計画を決めた▲学校のエアコン設置を支援する。福祉団体が高齢の人の見守りを強める…と、計画は冷静に、地に足を着けて実行するに限る。暑さに腹を立て、顔を赤くする場合ではあるまい。(徹)

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