「前人未到、成し遂げたい」南総里見八犬伝を現代語訳 4年がかりの作業、こみ上げた思いとは

原作を並べ、原稿用紙を手にする小野さん。一日10枚ほどしか進まなかったという(大津市)

 曲亭(滝沢)馬琴が江戸時代後期に著した長編小説「南総里見八犬伝」。小野英明さん(75)=大津市=は60代で出会い、「人生が豊かになった」という大長編を3年かけて現代語訳し、電子書籍で発表した。

 南総里見八犬伝は室町時代の千葉・安房国を舞台に、八つの玉を手にした若者たち(八犬士)が悪と闘い里見家の窮地を救う娯楽小説。馬琴が28年を費やして創作し、原作は全98巻106冊もの大作になる。

 香川県出身。大学で文芸部に在籍し、卒業後は陸上自衛隊で職務に励む傍ら、短歌に没頭するように。退職後は時間ができ、次第に長編小説を読み込むようになった。古典で一番長い作品を読もうと出会ったのが「八犬伝」。「こんな素晴らしい作品があるのか」と強い衝撃を受けた。

 何度か読むうちに、全文現代語訳が無いことに気付く。「おまえがやらなくて誰がやるのか、今やらなくていつやるのか」。内なる声に突き動かされ、2017年の元日、比叡山に登り覚悟を決めた。

 ひたすら読んでは紙に書き記し、パソコンに入力する日々。終わりの見えない作業に、心が折れそうになったことも幾度もあった。それでも「前人未到のことを成し遂げたい」という一心で続けた。

 21年2月、「完」の文字を書き込んだ。窓から見える比叡山には雪が積もっていた。達成感とともに寂しさを覚えた。「これで終わっちゃうのか、という思いはあった」。原稿用紙は7千枚を数えた。

 プログラマーの息子の力を借り、2年かけて電子書籍の出版にこぎつけた。「日本にはこんな素晴らしい宝があるんだということを知ってもらいたい」

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 電子書籍はアマゾンのキンドルストアで購入できる。1~11巻は各千円、12巻のみ2千円。「小野英明」で検索。

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