ロングガンマ線バースト「GRB 191019A」は天体同士の “衝突事故” で起きた?

ガンマ線バースト」は宇宙で起こる最も活発な天文現象の1つですが、その起源はよくわかっていません。ラドバウド大学のAndrew J. Levan氏などの研究チームは、ガンマ線バーストの1つである「GRB 191019A」が、非常に混雑した銀河の中心部で恒星やコンパクト星が衝突したことによって起こった可能性が高いことを突き止めました。重力を介して結び付けられた連星関係にはない天体同士の衝突によるガンマ線バーストを観測したのは史上初であると見られています。

ガンマ線バーストは、短時間で非常に大量のガンマ線が放出される、宇宙で最もエネルギッシュな天文現象の1つです。しかし、ガンマ線バーストがどのようにして起こるのか、正確なことは判明していません。これまでの研究により、ガンマ線の放出時間が2秒未満の「ショートガンマ線バースト」と、2秒以上続く「ロングガンマ線バースト」では、その起源が大きく異なるとされています。

ショートガンマ線バーストは、中性子星やブラックホールなどのコンパクト星同士が合体した時に発生すると言われています。その一方、ロングガンマ線バーストは非常に質量の大きな恒星の核が重力崩壊することで誕生したブラックホールの活動によって発生すると言われています。

この推定は、ガンマ線バーストと同じ位置で超新星爆発が見つかるかどうか確かめることで裏付けられています。ロングガンマ線バーストは超新星爆発直前の恒星で発生するため、しばしばガンマ線以外の波長でも「残光」と呼ばれるエネルギーの放出が観測されます。一方、ショートガンマ線バーストの場合はごく最近まで残光が観測されたことはなく、少なくとも超新星爆発よりもずっと弱い活動しか観測されていません。

【▲ 図1: ロングガンマ線バースト「GRB 191019A」と、それが出現した銀河の画像。 (a) 北欧光学望遠鏡の撮影画像。 (b) GRB 191019A出現前に撮影された画像と比較した明るさ変化の差分。黒い点がGRB 191019Aによる増光分。 (c) ハッブル宇宙望遠鏡の撮影画像。 (d) 画像cの拡大写真。円は推定されるGRB 191019Aの位置。円の色は使用された観測波長を意味しており、波長によって推定位置が少しずつ異なることが示されているが、いずれも銀河の中心部に極めて近い位置にある(Credit: Andrew J. Levan, et.al.)】

ただし、ガンマ線バーストの観測例が増えるに従って、上記の2種類に当てはまらない例外が存在することが明らかになってきました。今回Levan氏などの研究チームが対象とした「GRB 191019A」もその1つです。GRB 191019Aのガンマ線継続時間は64.4±4.5秒と約1分に渡り、単純に分類すればロングガンマ線バーストということになります。しかし、通常のロングガンマ線バーストとは異なり、GRB 191019Aではガンマ線の放出に伴う超新星爆発が観測されていません。

Levan氏らはハッブル宇宙望遠鏡、北欧光学望遠鏡、ジェミニ南望遠鏡で取得された観測データの分析を行った結果、GRB 191019Aの起源が地球から約30億光年の位置にある、誕生から10億年以上経った銀河の中心部付近 (300光年以内) であることを突き止めました。誕生からある程度の時間が経過したこのような銀河では、通常のロングガンマ線バーストの起源となる大質量星は生き残っておらず、新たな大質量星を生み出す活発な星形成活動も確認されていません。この銀河では超新星爆発が観測されていないことも、GRB 191019Aの起源が超新星爆発ではないと推定する根拠になります。

GRB 191019Aが銀河の中心部で見つかったことで、Levan氏らはロングガンマ線バーストの起源としてこれまで想定されてきた超新星爆発直前の恒星とは別の起源を推定しています。GRB 191019Aが発生した銀河と年齢が同程度の銀河の中心部は、数光年の範囲に100万個以上もの恒星が詰め込まれている非常に混雑した場所です。そのような環境では、恒星やコンパクト星がかなり頻繁に “衝突事故” を起こすと考えられます。

【▲ 図2: ロングガンマ線バースト「GRB 191019A」の想像図。この図は超大質量ブラックホールの周辺部で天体同士の衝突が起きたという推定で描かれている(Credit: International Gemini Observatory / NOIRLab / NSF / AURA / M. Garlick / M. Zamani)】

Levan氏らは、GRB 191019Aは銀河の中心部にある恒星密度の高い星団である中心核星団 (Nuclear Star Cluster) の内部、もしくは超大質量ブラックホール周辺の降着円盤において、連星をなしていない恒星とコンパクト星もしくはコンパクト星同士の衝突によって発生したと推定しました。重力を介して結び付いた連星同士の関係にはなかった天体が遭遇・衝突して発生したガンマ線バーストを観測したのは、GRB 191019Aが初めてだとみられます。

このようなガンマ線バーストがどの程度の頻度で起きているのかを知ることができれば、天体同士の衝突にともなう重力波の放出頻度を推定することにも繋がります。このようなガンマ線バーストがこれまで見つからなかったのは、銀河中心部が塵とガスに満ちた領域であり、ガンマ線の放出を隠していたためであるとも考えられます。ガンマ線バーストの研究には様々な波長の観測データが欠かせないため、これからも世界中の天文台が連携して取り組む必要性があるでしょう。

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文/彩恵りり

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