おそるおそる育休を取ったMBSアナ西靖さん 4カ月の経験で得た「気づき」を本に その後の自身のさまざまな「変化」語る

育休を約4カ月取得した西靖さん。育休中は頑張りすぎず、一息ついたり運動したり「育休を休むことも大事」と話す=大阪市北区(撮影・長嶺麻子)

 少子化対策として、注目される男性の育児休業。政府は男性の取得率を「2030年度に85%」とする新たな目標を打ち出した。そんな中、毎日放送(MBS)のアナウンサーで3児の父西靖さん(52)=兵庫県西宮市=が、約4カ月間の経験をつづった本「おそるおそる育休」(ミシマ社)を出版した。終わらない家事に頭を抱え、子どもの成長や悩みに右往左往する中で得た西さんの「気づき」とは-。(中島摩子)

 人気情報番組「ちちんぷいぷい」や報道番組「VOICE」などの司会やキャスターを担い、現在はアナウンスセンター長の西さん。専業主婦の妻(38)と長男(6)、次男(4)、三男(2)の5人暮らしで、三男が生まれた21年6~9月に育休を取った。

 ただ、長男や次男の誕生時は、毎日の番組に追われ「(取得を)考えもしなかった」という。「昭和生まれで古い価値観があった」と打ち明けるが、三男の時は新型コロナウイルス禍で実家に頼れず、担当番組が終了したタイミングでもあり、取得を決断。ただ、復帰後の仕事や慣れない家事などを考えると不安は尽きず、「入り口はおそるおそるだった」。

■育休突入

 出産直後の妻と三男が入院していた育休4日目。西さんは思わずツイッターにつぶやいた。「いや、マジ家事終わらんな。」

 朝食や弁当を作り、子どもを着替えさせて食べさせて、幼稚園に送り、戻って洗濯。あれこれしていると迎えの時間になり、買い物をして、晩ご飯の用意…。「家事ってこんなに次から次にあって、果てしなくて、大変なのかと思い知った」。なおも生活雑貨のストックを探し、「自分の家のことがこんなに分からないとは」とがくぜんとした。

 妻と三男が退院してからも、兄の「赤ちゃん返り」や「オムツ卒業」、子どもが幼稚園に行かない夏休みのしんどさなど、課題は山積。一筋縄ではいかず、悩みは尽きなかったが、「『うまくいかない』ということが分かったのは、育休の手柄だった」と西さん。

 さらに「大事なのは、子どもの表情や行動の微妙な変化をすくい上げるセンサー。4カ月というのは、ワーっというお祭り期間ではなく日常で、その後の生活の『起点』になるような気づきが、ポツポツといっぱいあった。4カ月というまとまりは、僕にとって意味があった」と振り返る。

■変わったこと

 今、後輩たちに育休の長期取得を勧めているという西さん。子どもの発熱に急に対応するなど、時間をやりくりしながら働く同僚への理解も深まった。

 そして、ニュースを扱う上で変わったのが「虐待に対する考え方」だ。「自分も子どもにイライラするし、妻ともぶつかる。虐待は特殊な出来事ではなく、日常の延長線上にあるのだろう、と。『未熟な親』と片付けるのではなく、何があったのか、前より踏み込んで考えるようになった」

 仕事に復帰してもうすぐ2年になるが、その間も家族が相次いでコロナに感染したり、西さんが骨折したりとピンチの連続だった。ただ、育休を経て「妻との子育てタッグは強くなった」と感じ、近所の人にも救われ、乗り切ってきた。

 そんな西さんが改めて思うのは「育休は家庭にも仕事にも地域コミュニティーにも、全部に影響している。大変だけどおもしろくて、自分自身が成長できる機会」ということだという。

■男性育休の今後は

 男性育休の取得率を巡って、政府が掲げる「2025年度50%、30年度85%」という目標。一方、21年度の取得率は13.97%で、9年連続で上昇し過去最高になったものの、目標にはまだ遠い。

 政府目標は現実的なのか-。「男性育休の社会学」(さいはて社)の著者で甲南大文学部教授の中里英樹さん(55)は、国が育休中の給付金の底上げなどに取り組むことから「実現は可能」としつつ、「大事なのは取得率よりも、育休が終わった後に、父親が子育ての完全な担い手となれているかどうか」と話す。

 中里教授が重視するのが「単独育休」だ。母親の職場復帰に合わせて父親が育休を取るなどし、子育てと家事を一人で担う経験をすることをいう。それが、「母親でなければ」という思い込みを覆し、父親の自立につながるといい、「子育てとキャリアのジェンダー平等、ワークライフバランスの向上など、社会全体の価値観の転換に関わる」と話している。

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