社説:デジタル庁検査 マイナンバー、ひずみ究明を

 深刻なトラブルが止まらない。マイナンバー制度の底が抜けたかのようである。

 政府の個人情報保護委員会はデジタル庁に対し、マイナンバー法に基づく立ち入り検査を始めた。職員への聞き取りやシステムなどを調査し、行政指導も視野に入れているという。

 全国民にかかわる制度であり、個人情報の漏えいなど単なる事務的ミスでは済まされない。デジタル庁のリスク管理は十分だったのか。運用体制や組織的要因をしっかり調べ、責任の所在と課題を明らかにすべきだ。そうでなければ、再発防止の道筋は見えてこないだろう。

 立ち入り検査の対象は、自治体の窓口作業でマイナンバーカードと口座をひも付ける際、誤って他人名義の口座が登録されるミスが多発した問題だ。埼玉県では、他人口座への誤入金も確認されている。

 春以降、「マイナトラブル」が言葉として定着するほどの体たらくである。コンビニでの証明書誤交付に始まり、他人の年金情報の表示、同姓同名など別人の医療情報や障害者手帳の誤登録、カード交付枚数の過大計上なども判明している。

 デジタル社会への「司令塔」として、一昨年発足したデジタル庁の迷走ぶりが際立つ。マイナポイントの付与をアメに、健康保険証との一体化をムチに、強引に進めてきたツケにほかなるまい。主導した河野太郎デジタル相の責任は極めて重い。

 公金受取口座の誤登録では、国税庁から情報提供を受けながら、河野氏への報告は数カ月遅れだった。庁内アンケートでは「組織の風通しが悪い」との声が上がっている。民間出身と従来の職員との間で摩擦があるともいわれる。この際、うみを出してもらいたい。

 岸田文雄首相は先月、省庁横断の組織を設け、マイナンバー関連情報の総点検を始めた。マイナ保険証だけでなく、児童手当や雇用保険など29項目の個人情報を対象にデータの誤登録がないか今秋までに洗い出すとし、8月上旬に中間報告を出すよう指示した。

 衆院解散の時期でフリーハンドを握りたいという、政治的な思惑がちらつく。

 実務を担うのは、自治体や健康保険組合を含む約3600機関である。職員を動員し、夏休み返上で人海戦術を強いられているという。膨大な点検作業を急がせれば、ミスの見逃しや新たな発生につながりかねない。十分な作業時間を確保し、人的支援も考えるべきだろう。

 共同通信社の世論調査によると、マイナカードへの保険証一本化に関し、8割近くが延期や撤回を求めている。

 最近は、カードを返納する動きも見られる。国民の信頼回復に向け、一本化をいったん凍結した上で、制度を根本から見直すことを重ねて求める。

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