あわや飛び降り、地上30m以上の橋上で男性救助 病院職員の男性に善行賞 亡き友お参りする途上「助けなきゃの一心だった」

橋から飛び降りようとした男性を救助したとして「のじぎく賞」を受け取る稲垣雅己さん=宝塚市旭町1

 橋の欄干の外側に立ち、飛び降りようとしていた男性を救助したとして、兵庫県警宝塚署は大阪府豊中市の病院職員稲垣雅己さん(52)に県の善行賞「のじぎく賞」を伝達した。地上からの高さは30メートル以上あったが「止めなくちゃ、助けなきゃ、という一心だった」と稲垣さん。1年前に急死した友人のお参りに行く途中だったといい、亡き友に「救えたよ」と語りかけた。(広畑千春)

 6月中旬の昼過ぎ、稲垣さんは休暇を取り、宝塚市内を車で走っていた。トンネルを出て橋を渡っていると欄干の向こうに立って身を乗り出している人がいるのに気付いた。欄干の手前にはきちんとそろえられた靴。「あかん」と急きょ車を路肩に止め、駆け寄った。

 若そうな男性だった。橋の下の道路までは目測で高さ30メートル以上。近づき、そっと歩を緩めた。「大声を出したら(飛び降りる)きっかけになってしまうかもしれない」。努めて穏やかに「どうした?」と声をかけた。が、返事はない。視界に、同様に異変を察知して近づいてくる作業員風の男性が見えた。アイコンタクトを取り、次の瞬間、右後ろから男性のベルトの右側をつかむと、2人で欄干の内側に担ぎ上げた。

 男性はぼうぜんとしていた。額から出血したものの、すり傷で済んでいた。「名前は何ていうの?」「年は?」…。稲垣さんは通りがかった宝塚市職員に通報を頼み、警察が到着するまでの間、反応がなくてもずっと男性に話しかけた。作業員風の男性は立ち去っていた。

 「死を考えた人はこの世との関わりを断ち切っているのかもしれない。こっちに戻ってきてほしい、我に返ってほしい、と必死だった」。3分以上がたち、男性は稲垣さんと目を合わせるようになり、問いかけに答えるようになったという。

 警察への引き継ぎを終えた後、稲垣さんは亡き友人に線香を上げ、「そっちから見てたやろ。間に合ったで。良かった。助かったで」と報告した。道も時間も普段は通ることのない場所で、不思議な巡り合わせも感じた。大阪の病院で事務長を務める稲垣さんは「生きるのをやめたくなるほどつらい時は、今ある状況から逃げていい。家に帰らなくても、学校に行かなくても、仕事に行かなくても、日本にはセーフティーネットがあるから、と伝えたいですね」と空を見つめた。

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