宿泊施設「異常事態」の人手不足 コロナ禍で離職の従業員補充できず 青森県内、繁忙期控え苦境

レストランの出入り口で受け付け対応に当たる荒井麻友子総支配人代行(左)。本来の担当業務ではないが、人手不足によりここのところ毎日だという=20日夕、南部屋・海扇閣

 新型コロナウイルスの影響が緩和し観光需要が回復する中、青森県内宿泊施設で人手不足が深刻化している。コロナ禍で離職した従業員の補充が難航し、宿泊予約を制限したり、1人が複数分野の業務をこなす「マルチタスク」を導入したりと対応に苦慮。祭りや盆など最大の繁忙期が迫るが、関係者からは「疲弊している」「対応が難しい」などと切実な声が聞かれる。

 「客はコロナ前に戻りつつあるのに、従業員が戻っていない。人手が十分だったことはこれまでもなかったが、今は異常だ」。八戸プラザホテル(八戸市)の佐々木隆治常務取締役は、沈んだ声で現状を憂えた。

 県が6月に実施したアンケートでは、県内宿泊事業者の約83%が従業員が不足していると回答。求人を出しても応募がない、入社しても定着しない状況で、サービスの提供に支障が生じている施設も多いという。

 同ホテルでは、客室清掃を請負業者に任せたり、宴会や飲食の業務は短期のパート・アルバイトを雇い、急場をしのいでいる。佐々木常務は「対応は一時的で、自転車操業みたいなもの。このままでは今いる従業員の負担が大きくなり、ますます離職が進む可能性もある」と懸念した。

 従業員約90人を抱える青森市浅虫の温泉旅館「南部屋・海扇閣」は、これまでフロント、清掃、配膳など業種ごとに担当者を配置していたが、マルチタスク制度を導入。時には総務や経理などのバックオフィス担当や役員も現場に立ち、全社態勢でやりくりする。

 小林淳一社長は「残業時間も増え、従業員は疲弊している。お盆までのピークが明ければ緩むかも-と思ってみんな頑張っている」とねぎらいを口にした。売店スタッフで、今月から皿洗いも担う根戸内彩香さん(30)は「疲れるけど、暇よりは忙しい方がやりがいがある」と語った。

 風間浦村の下風呂観光ホテル三浦屋では、コロナ禍に加え高齢化や2021年8月の豪雨災害もあり離職が加速。国の観光支援策で旅行需要は持ち直していたが、2年ほど前から全室稼働できず予約数を制限し、従業員の休みを確保するため休館日を設けている。

 三浦祐未若女将(おかみ)は「全室の対応が難しく、予約をお断りせざるを得ない。前は2、3人いたフロントも今は1人で対応しており、接客中で電話に出られないこともある」と話した。

 コロナ禍で業界の不安定さが浮き彫りになり、働き手に敬遠されている-と指摘する声も。県旅館ホテル生活衛生同業組合の福士圭介理事長(ブロッサムホテル弘前代表取締役)は「昔と違い、人が来ない。これからは高卒人材を育てたり、働く意欲のある高齢者をスポット勤務であちこちの施設に派遣するネットワークをつくったり、労働力を確保する仕組みが必要」と語った。

© 株式会社東奥日報社