制作スタッフは全員隊員 自衛隊ねぶた師・有賀さん、最後の夏 定年控え「後進に道」

真剣なまなざしでねぶた制作に臨む有賀さん

 青森ねぶた祭で18年間にわたり「青森自衛隊ねぶた協賛会」の大型ねぶたを手がけてきた、陸上自衛隊所属のねぶた師・有賀義弘さん(54)が今年を最後に制作の第一線を退く。ねぶた師をはじめとする全制作スタッフが自衛隊員の同会。有賀さんは定年まで1年を残し、来年は後進に道を譲る-と決断。「お客さんを楽しませるねぶたを作りたい」と、最後の大型ねぶたと向き合っている。

 20日、青森市安方のねぶた団地「ラッセランド」。頭にタオルを巻き、耳に鉛筆を挟んだ姿で、竜の目に線を入れる有賀さんの姿があった。作業を支える隊員たちと共に、台上げを27日に控え、黙々と作業を進めていた。

 有賀さんは、陸自第9師団第5普通科連隊広報班に所属。入隊2年目の1989年から団体のねぶた制作を手伝い、前任のねぶた師の引退を受け、2005年から制作を任された。

 独り立ちした当初は、自分のねぶたの面は勇ましくないと悩むこともあった。気持ちを変えたのは、11年3月の東日本大震災。自衛隊の一員として岩手県陸前高田市へ向かい、被災地の惨状を目の当たりにした。青森に戻り思ったのは「こんな時に、勇ましい題材でなくてもいいのではないか」。それからは、平和を願う題材を選び、勇ましさへのこだわりは捨てた。今回選んだのは「三国志」の桃園の誓い。劉備、関羽、張飛の3人が志を共にする名場面だ。3人が並ぶ構図は有賀さんにとって初挑戦。気合が入る。

 同団体は、新型コロナ禍の影響で祭りが中止となった20年から3年間、自衛隊としての災害派遣なども重なり、制作を見送っていた。周囲では、その間も制作を続けるねぶた師もおり、有賀さんは「定年も近かったし、正直、作りたかった」と率直な思いを語る。

 そして迎えた4年ぶりのねぶた制作。喜びもつかの間、「感じるのはブランク。勘がなかなか戻ってこない」と苦笑い。スケジュールも遅れ気味だ。それでも作る喜びを感じている。

 そして「ずっと『若い子たちに道を譲らないと』という気持ちがあった。自分は前任者が辞めていきなり任され、助言を求める人がほとんどいなかった」と来年は指導役に回る考えを語る。

 後任は、5、6年前から作業を手伝ってきた同連隊の小財覚(こざいさとる)さん(43)。ねぶた師・内山龍星さんの弟子でもある。有賀さんは「基本ができている。任せても大丈夫」と小財さんに太鼓判を押す。

 ねぶた師として迎える最後の夏。有賀さんは「ねぶたが終わって、若手がまたやりたいと言ってくれるのがうれしい。ねぶたに興味のない若い人たちが興味を持ってもらうきっかけをつくってこられたのかな」と、ねぶた師の矜持(きょうじ)をのぞかせた。

 青森自衛隊ねぶた協賛会のねぶた運行は、8月2~6日。

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