心の痛みは時効も解決もない…45年間語らなかった「犯罪被害者」の経験、思い 15歳で両親失った女性が講演

「犯罪被害者の心の痛みには時効も解決もない」と講演する佐藤咲子さん=19日午後、埼玉県狭山市入間川の市民交流センター

 岩手県で1964年に発生した強盗殺人事件で15歳の時に両親を亡くした埼玉県狭山市の佐藤咲子さん(74)が19日、同市入間川の市民交流センターで講演し、「犯罪被害者の心の痛みには時効も解決もない」と語った。佐藤さんは犯罪被害者らへの支援について「生きていく力を付けることも大切だ」と県内外から来場した約100人に呼びかけた。

 佐藤さんの実家は岩手県川井村(現・宮古市)にあり、事件当時は高校生で村外に下宿していた。二つ年上の兄も実家を離れていた。

 事件は64年12月に起きた。実家に男が侵入し、雑貨商で元村議の54歳の父と52歳の母に向けて散弾銃を撃ち、2人を殺害。金品を奪い逃走した。

 お父さんが危篤だから帰るようにと担任教諭に告げられ、下宿先を後にした。実家が近づくとかがり火が見え、規制線が張られていた。事件だと知った佐藤さんは、気を失って倒れた。「医師が私に注射をしたというが、全く覚えていない。気が付いたら、だるまストーブの前に座らされ、がたがた震えていた」と振り返る。

 司法解剖を終えた両親の遺体と対面した。喉を撃たれた父は傷痕が痛々しく、母は真っ白な顔で眠っていた。

 佐藤さんは「喜んだりしてはいけないような気持ち」になっていった。一方で「犯罪被害者の子」としてバッシングされることを避けようと、自ら冗談を言った。「演技をして生きてきた自分が本物なのか、分からないでいる」。そう胸の内を明かした。

 事件から8日目に男が逮捕された。佐藤さんは下宿先に戻ったが、夜は眠れなかった。「当時は学校での心のケアは一切なかった」とし、犯罪被害者への支援について「立場に合わせて精神面でもサポートし、一人で生きていける力を付けてあげることも必要なのではないかと思う」と説いた。

 男は死刑判決を受けた。佐藤さんは死刑のあり方にも触れ、「徐々に死刑はなくなっていくと思う。でも死刑廃止論を訴える人には犯罪被害者の心情を聞いてからもう一度、論じてほしい」と求めた。また「天から与えられた命は、誰も手をかけてはならない」と語った。

 佐藤さんは一般社団法人「犯罪被害者等支援の会オリーブ」を2014年に立ち上げ、理事長を務めている。事件のことについては自らの身を守るために45年間、話すことはなく、60歳ごろから語り始めたという。「因果応報の言葉に苦しめられた。きょう一日、温かい食卓を迎える。家族そろって笑う。これが一番の幸せだと認識してほしい」と話した。

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