長崎・大石知事の訪欧に賛否 NPT準備委に合わせ 被爆者や若者は期待、必要性に疑問の声も

 長崎県の大石賢吾知事は、31日からオーストリア・ウィーンで始まる核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会に合わせて現地を訪問する。核兵器廃絶を目指す被爆者や若者は「被爆地長崎の存在感が増す」と期待する一方、本県の平和事業は長崎市がけん引してきた経緯があり、政財界には「知事の役割が見えない」と疑問視する意見もある。
 「国際社会で停滞する核兵器廃絶の動きが前に進む一助になれれば」。大石氏は19日の定例会見で、訪欧の意義を語った。
 現地では、国連や軍縮の関係者らと面会予定。国連の次期「持続可能な開発目標(SDGs)」に核廃絶を明記させる狙いで、広くアピールするイベントを広島県と共催する。若い世代の育成につなげるため、学生グループ「ナガサキ・ユース代表団」のイベントにも参加する。
 こうした活動に、県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長は「知事が県の代表として自ら『核なき世界』実現に貢献しようと行動すること自体に意義がある」と評価。同代表団の梶立人代表=長崎大3年=も「知事は人を集める力を持っている」と歓迎する。
 大石氏は昨年夏にも、歴代知事で初めて、NPT再検討会議に合わせ米国の国連本部を訪問。広島県と共催でシンポジウムを開いた。
 ただ、これまで本県の平和事業を主導してきたのは、被爆の実相を長年調査してきた長崎市。同会議でも当時の田上富久市長が非政府組織(NGO)平和首長会議の副会長として演説した。一方、大石氏が公式に発言する機会はなかった。今回の準備委でも田上氏と同じ立場で鈴木史朗市長がスピーチする予定。
 大石氏が現地に出向く必要性には“身内”も首をかしげる。知事選で大石氏を推薦した自民党県連の谷川弥一会長は、先月の定期大会で「知事は平和運動を(政策の)大きな柱としているが、それは長崎市の仕事ではないか」と批判。経済界の重鎮らも「パフォーマンスに見える」として、市政と重複しない形で実効性のある県政を望む。
 これまでの核廃絶運動を革新系の団体が推進してきたのを踏まえ、保守系の議員らからは「革新系知事とみられないか」といった政治的な思惑も漏れ聞こえる。
 大石氏は会見で長崎市との役割の違い問われ、「県はポストSDGsに取り組んでおり、市とは別の役割を担っている」「それぞれが役割を果たしながら核廃絶の共通目標に向かって進むことが重要だ」と強調。県の役割が分かりにくいという指摘に対しては「しっかりと受け止め、理解してもらえるよう活動していく」と述べた。

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