社説:瀬戸内法50年 豊かな海の回復、京滋からも

 瀬戸内海の水質改善を目指した「瀬戸内海環境保全特別措置法」(瀬戸内法)が1973年に制定されて50年を迎えた。

 夏の京料理を象徴するハモのように、京都には古くから瀬戸内海の航路を通じて文物や海産物が運ばれ、豊かな恵みを受けてきた。瀬戸内法は、京都市など府内の淀川水系18市町村も対象エリアである。水質汚濁法より厳しい排水規制で、富栄養化の防止を進めた瀬戸内法の歴史的意義を改めて確認したい。

 高度成長期に工業排水や生活排水が流れ込み、瀬戸内海では赤潮が繰り返し発生し、漁業者が打撃を受けた。砂浜や干潟は埋め立てやコンクリート護岸で失われ、「汚濁の海」だった。内湾や内海といった閉鎖性海域は波静かで特有の生態系を育む一方、外海と海水が交換されにくく、環境が悪化しやすい。瀬戸内法は周辺13府県に排水の総量規制を課してきた。

 半世紀を経て、瀬戸内海は窒素やリンなど栄養塩類などの流入が抑制され、赤潮の発生回数は減少した。一方で、兵庫県のイカナゴ漁不振やノリの色落ちなど、栄養塩類の減少でプランクトンが減り、魚も減る食物連鎖の悪循環が顕在化している。

 排水規制だけでは対応できない、複雑な閉鎖海域の生態系のバランス回復が課題だ。きれいな海を求める観光業と、きれいになりすぎ栄養が「やせる海」に悩む漁業といった多面的価値に応える施策が求められる。

 瀬戸内法は一昨年改正され、きれいな海を一律に目指す姿勢から、個々の湾や灘など海域の実情に応じ「豊かな海づくり」を進める方向へかじを切った。

 これを受けて、京都府も今春、瀬戸内海の環境保全計画を策定した。京都市や木津川市など府内200万人以上の排水では、水質汚濁負荷の総量削減を維持しつつ、海洋プラスチックごみの発生抑制や気候変動を含む環境モニタリングを新たに盛り込んだ。

 瀬戸内海の多様な機能を回復させるため、私たち上流域の住民ができることを考えるのは重要だ。淀川水系の排水や廃棄物は、大阪湾に流れ着く。京都府の淀川水系住民と滋賀県民が、生活排水やプラスチックごみ削減の取り組みを一層進めるには、大阪湾の現況を伝える施策を強化することが鍵を握る。

 大阪湾では、夏に海中の酸素が極端に少ない「貧酸素水塊」が発生し、魚が死ぬ事例も起きている。高度成長期にコンクリート用材として海底土砂を大量採取したことで生じた海底の窪(くぼ)地が、発生の一因と考えられている。埋め立て護岸では、干潟や浅瀬の藻場が失われた。

 大阪府の海の多様性を回復する施策と緊密に連携しつつ、大阪湾の水循環と生態系メカニズム解明といった研究面や文化的景観の面でも、上流の京滋から踏み込んだ貢献をしたい。

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