「へし折られた」鼻っ柱 蝉川泰果のメジャー初挑戦とこれから

初挑戦のメジャーは2日間で終戦。日本にたくさんの宿題を持ち帰る(撮影/村上航)

◇メジャー最終戦◇全英オープン 最終日(23日)◇ロイヤルリバプール(イングランド)◇7383yd(パー71)

カートに乗せられて、ティイングエリアに戻っていく屈辱感。風を切りながら「もう、やめたいな…」と自暴自棄な気持ちにさえになった。決勝ラウンド進出をかけてプレーした大会2日目、蝉川泰果は暫定球を打つために2度、同じ心境を味わった。

22歳で経験した初めてのメジャー。初日6オーバーの出遅れを取り返そうと、見上げた頭上のカットラインは遠いままだった。「なんとかしてチャンスをつかもうと、4つ伸ばすことに集中していました。でも全く獲れなくて…」。フォローの風を感じた終盤15番(パー5)、4Iで打った残り240yの2打目は左のポットバンカーに入った。「なに、やってんねやろ…」。通算10オーバー。英国に持ってきたはずの自信と期待は2日間のうちに砕かれた。

ロイヤルリバプールはゴルフ人生で「一番難しいコースだった」と感じる。1月にスポット参戦して驚いたPGAツアー「ファーマーズ インシュランスオープン」のトリーパインズGCよりも風の読みが難解だった。「体感よりも強くて。弱いと思ったのも強くて惑わされた」。ただ、環境以前に「技術的に足りないものがあるなって…ずっと試合中も考えていました」。バーディを目指しながら、ふとした瞬間には自分を見つめるばかりだった。

初日の大きな出遅れも響く結果となった(撮影/村上航)

昨年、日本で史上初めてアマチュアとして2勝を挙げ、ことし4月には「関西オープン」で早々にプロ初勝利。強い目力には度胸の良さがいつも表れているようで、誰よりも自分を厳しく見つめている。「確かにいろんな経験ができているんですけど、ショートゲームの課題をなかなかクリアできない。上達していないんです」

開幕前日の練習ラウンドは2006年、14年大会で当地を知る進藤大典キャディのツテでアダム・スコット(オーストラリア)と回った。予選2日間はイ・キョンフン(韓国)、デービス・ライリーというバリバリのPGAツアー選手と一緒で改めて思った。

「自分はスピンをかけるのは得意かもしれません。ただ、転がしの技術が日本でも下手。100yd以内の精度も全然足りない。飛距離的には問題ないかもしれないと思うんですけど、やっぱりそこからしのぐ能力がもっといるのかなって。(日本とは違う)芝質も難しい。自分の夢でもある4大メジャー制覇のためには、こっち(欧米)に来ていろいろやっていかないと無理なのかなって実感しました」

予選落ち翌日にコースの練習場へ。ガレス・ジョーンズコーチと調整に励んだ(撮影/村上航)

雨模様だった週末、コースには決勝ラウンドの喧騒を耳にしながら、黙々と練習する蝉川の姿があった。「ショットは振り切ることによって自分は曲がらないと改めて分かったのが収穫のひとつでした。でも、グリーンもボールがはねたんで、パッティングも難しかった。ピンパターをやめて、マレットも思い切って試してみようかな」。帰国してすぐに「日本プロゴルフ選手権」(北海道・恵庭CC)に出場。視線はもう次に向けている。

初体験だったメジャーの会場で、選手も足を運ぶグッズショップには蝉川は見向きもしなかった。お土産はプレーから得たものでいっぱいだ。「楽しかったです。久々にゴルフが楽しいって思いました。やっぱりギャラリーの方のバーディの時の歓声がうれしかった」。2日間で5回、四方から浴びた万雷の拍手は忘れられない。

雪辱を果たす機会は必ず巡ってくる(撮影/村上航)

「絶対にもう一回、ここに戻ってきたい。絶対に」。リンクスの風はメジャー制覇への意欲をかき消すどころか、膨らませた。「周りの人たちは、松山(英樹)さんにしか無理じゃないかと言われているんですけど、不可能を可能にしたいなっていう気持ちが高まりました。また、頑張りたいです」。誰に笑われようが構わない。夢は、描かなければかなわない。(イングランド・ホイレイク/桂川洋一)

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