世界のワークス相手に藤井誠暢が見せた“ナメられない走り”。ランキング2位浮上で最終決戦へ/GTWCアジア

 7月23日に栃木県のモビリティリゾートもてぎで行われたファナテックGTワールドチャレンジ・アジア・パワード・バイ・AWSの第8戦。前日に続き、ポルシェセンター岡崎の18号車ポルシェ911 GT3 R(永井宏明/上村優太)が日本勢最上位でフィニッシュし、次戦岡山で迎える“ジャパンカップ”最終決戦に向け、ポイントリードを拡大した(ランキングは『GT3 ジャパンカップ・ドライバーズ・チャンピオンシップ』におけるもの)。

 このもてぎラウンドに入る前までジャパンカップ首位に立っていたプラス・ウィズ・BMW Mチーム・スタディの5号車BMW M4 GT3(山口智英/荒聖治)は、2日連続で悲運のクラッシュを喫することとなり、まさかのノーポイント。ランキングでは3位へと後退してしまった。

 代わって、第7戦で日本勢3位、第8戦では同2位でフィニッシュしたDステーション・レーシング47号車アストンマーティン・バンテージGT3の星野敏/藤井誠暢組は、首位の永井/上村組から17ポイント差のランキング2位に浮上している。

■「冷静かつアグレッシブ」な走りで7ポジションアップ

 47号車は富士での第4戦でトップチェッカーを受けながらも、その後にペナルティを受けた27台のなかの1台となり、総合7位に降格していた。もてぎでは勝利はならなかったものの、ジャパンカップでは上位フィニッシュを飾り、タイトル戦線に踏みとどまった形だ。

 藤井によれば、もてぎとバンテージGT3との相性はあまり良くなく、「ここが一番苦しいサーキット」。ギヤ比がコースレイアウトと合わないこと、フロントエンジン車であるゆえもてぎで重要なトラクションが得られにくいことなどが、その要因だという。おかげで、予選では2レースとも下位に沈んでしまう。

 しかし15番グリッドからスタートした第8戦、藤井はオープニングラップを終えると8番手へと浮上していた。「絶対に5コーナーまでに『何かが起きる』と思っていた」という藤井のイメージどおり、5コーナーでは大きな混乱が見られたが、そこを「冷静かつアグレッシブに」走り、大ジャンプアップを果たしていたのだ。

 その後、序盤は目の前のクラフト・バンブー・レーシング85号車ポルシェ911 GT3 Rのマキシミリアン・ゲーツを攻めながらも、同時に背後に迫るAASモータースポーツ・バイ・アブソリュート・レーシング911号車ポルシェのアレッシオ・ピカリエッロからの猛攻をしのぐという、慌ただしい状況となった。とりわけ、ピカリエッロは再三藤井に仕掛け、ポジションを奪おうとしてきた。

「ポルシェはもてぎが得意ですし、アレッシオが今週すごく速いのも分かっていましたから、『苦しいな』とは思っていたんです」と藤井。そこで効いたのは路面コンディションが変わることを予測して「ちょっと博打的に、前日からは大きめに変えた」セットアップと、藤井の“経験”だった。

「僕は基本的に“ナメられない”走りを常にしてきたつもりなので、彼らも簡単にはインに飛び込んできません。それだけでも、ずいぶん違います。そして無駄にブロックするとペースが落ちてしまうので、適切な距離になったときにだけ、適切に抑えるように走りました」と藤井。前方のメルセデスにも接近していたことから、クーリングのためにストレートでラインをずらすことも怠らなかった。

Dステーション・レーシング藤井誠暢を先頭とした8番手争い

 背後のピカリエッロには、1コーナーでクロスラインをかけられそうなタイミングも2度ほどあったが、絶妙なライン取り、そしてアクセルオンのタイミングで、付け入る隙を与えない。

「アレッシオは速いし頭もいいので、そこで抜きに行ったらぶつかる、というのは分かっていたはずで、おそらく僕のミス待ちだったと思います」

 47号車はレース2での“定石”とされる35分ギリギリまでピットインを引っ張ることはせず、10分間のウインドウのほぼ中間時点でピットへ飛び込んだ。周囲の後半担当のブロンズドライバーがアウトラップでミスをする可能性、そしてセーフティカー導入のリスクを考えての判断だった。「もともともてぎでは勝負権がないと思っていたので、“あわよくば”でポディウムを狙うのであれば、そっちに賭けた方がいいですから」と藤井。

 後半の星野もオーバーテイクを見せるなど好走し、結果は総合9位、ジャパンカップ勢では2位でチェッカーを迎えた。

 ジャパンカップのタイトル決戦の舞台となる岡山国際サーキットでは、昨年優勝しているDステーション。

「ストップ・アンド・ゴーではありますが、もてぎとはだいぶ性格の違うコースですし、過去の実績を考えても、岡山は意外と相性がいい。もちろんBoPなどもあるのでわかりませんが、だいぶ期待度は高いですね」と語る藤井は、タイトル争いというよりは、総合優勝争いができることに期待を寄せているようだ。

「あの世界のワークスドライバーのみんなと、できればトップ争いがしたいですよね。富士、鈴鹿、もてぎと毎回バトルはしてきましたが、(総合)6位とか7位で争っていてもカッコ良くないので(笑)。ただ、このレースはやっていてめちゃくちゃ楽しいですよ」

 GTWCのポイント配分は各レース1位に25ポイント、以下18、15、12、10……という形。さらに、“選手権のなかの選手権”に位置付けられるジャパンカップでは、総合順位とは別に(上位からジャパンカップ参戦勢だけをピックアップして)ポイントが付与されることもあり、『残り2戦で17ポイント差』はそこそこ大きなギャップと言える。なお、『GT3 ジャパンカップ・プロ/アマ・ドライバーズ』のランキングでは、21ポイント差となっている。

 果たしてこのままポルシェセンター岡崎がタイトルに突き進むか、Dステーションが待ったをかけるか。最終岡山決戦の、一番の見どころとなるだろう。

15番グリッドで第8戦のスタートを待つDステーション・レーシングの47号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3
GTWCアジア・ジャパンカップのランキング首位をゆくポルシェセンター岡崎の18号車ポルシェ911 GT3 R(永井宏明/上村優太)

© 株式会社三栄