社説:クラスター弾 戦闘激化に歯止めかけねば

 国際条約が禁じる非人道的な兵器であり、使うべきではない。犠牲者の拡大は避けられず、戦争が終わった後も不発弾が市民を脅かすことになる。

 ロシアによるウクライナ侵攻で、殺傷能力の高いクラスター(集束)弾の使用に拍車がかかっている。戦争の終わりが見えない中、さらなる戦闘のエスカレートを招くことにならないか、懸念は高まる一方だ。

 ロシア軍は昨年2月の侵攻当初から多用しているとされ、昨年4月にドネツク州の鉄道駅を同弾で攻撃、避難民ら50人以上が死亡した。これに対し、ウクライナ軍もソ連製などを使った可能性があるという。

 さらに、これまで慎重だったバイデン米政権がウクライナへの供与に転じた。反転攻勢が弾薬の枯渇で思うように進まないとの求めに応じ、塹壕(ざんごう)を掘って守りを固めるロシア軍への攻撃に有効と判断したとみられる。

 22日にはウクライナ東部と南部で両軍が使用し、従軍記者ら双方に死傷者が出た。非人道的な兵器を互いに撃ち合う事態が現実のものとなっている。

 クラスター弾は大量の子爆弾をまきちらして広範囲に打撃を与えると同時に、不発弾を残す。戦闘地域に残された民間人や、避難先から将来帰還する住民をも危険にさらす。

 2010年に発効したオスロ条約で開発、製造、貯蔵なども全面禁止された。日本を含む110カ国以上が参加したが、米中ロ3カ国とウクライナは加盟していない。

 ロシアの侵略にこそ一義的な責任があるのは自明だ。ただちに使用をやめ、撤退することを求める。ウクライナも苦渋の選択だろうが、残虐性と長期の被害を考えれば思いとどまるべきである。

 オスロ条約は非加盟国に不使用を働きかけるよう努力義務を定めている。北大西洋条約機構(NATO)内でも加盟国の英国やドイツ、イタリア、カナダ、スペインが米の供与に反対を表明したのは当然だろう。

 対照的に日本は追認した。松野博一官房長官は「2国間のやりとりであり、コメントは差し控える。米国が果たしてきた役割は重要だ」などと述べるにとどまった。

 軍事支援に加わらない日本が異を唱える問題ではないとの考えのようだが、条約加盟国として「平和国家」の義務を果たすべきではないか。

 米政府は不発率が大幅に低いことを挙げて理解を求めているが、これまでロシアの使用を問題視してきたことと矛盾している。支援の一線を越え、ロシアにさらなる大量破壊兵器使用の口実を与えかねない。

 国際社会は法の下に結束し、残虐な行為に歯止めをかけなくてはならない。

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