よゐこ有野、相続で揉めるケースに驚き「莫大な遺産があって、じゃないんだ」

お笑い芸人・よゐこの有野晋哉さんが、毎月さまざまな専門家をゲストに迎えて、お金の知識を身に付けていく「お金の知りたいを解決!お金の学園〜学級委員・よゐこ有野晋哉〜」。2023年7月は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーの井戸美枝先生に、終活について伺いました。

今回は、「相続と遺言」について。遺言書とエンディングノートの違い、ご存知ですか?


有野晋哉(以下、有野):結局、前回から何にも終活進んでへんなぁ。それどころか、2023年はファミコンが発売されて40周年。任天堂のキャンペーンサイト見てたら、懐かしいレトロゲームがズラリと並んでて、欲しいソフトがどんどん出てきてもうた。コバヤシ玩具店、めっちゃ行きたい! でも、グラビア写真集だけでも整理が大変なのに、ゲームソフトも増やしちゃったら、終わらない活動で終活になってまうな……。

井戸美枝(以下、井戸):有野さん、なんだか楽しそうですね(笑)

有野:あれ、先生。いらっしゃるなら言ってくださいよ、恥ずかしいやないですか(笑)

井戸:ファミリーコンピューターって、40周年を迎えるんですか。歴史があるものなんですね。

有野:うわ~、ばっちり聞かれてる(笑)

井戸:終活でモノの整理を始めたはずが、逆に思い出が蘇って新たにモノを増やしてしまう、なんて方もときどきいらっしゃいますね。

有野:それ僕です。モノを増やしたら大変だ、ってわかってるのに、あの手この手で物欲を刺激してくるので(笑)

井戸:自分の気持ちに蓋をして無理して終活に取り組んでも長続きしません。「できることから、少しずつ」ですよ。ということで、本日は終活の中でも大切な「相続」と「遺言」についてお話ししたいと思います。

有野:よろしくお願いします!

遺産相続の流れ

井戸:相続については、法的なお話しは弁護士や税理士の範疇なので、簡単に流れだけ説明しておきたいと思います。本人が亡くなられた時から、相続の手続きは始まります。それと並行して、葬儀の準備を進めることになるでしょう。亡くなられてから7日以内に死亡届を役所に提出し、お通夜や葬儀、初七日(しょなのか)の法事と続くわけですが、年金や健康保険、社会保険の手続きも行う必要があります。そこまで急いで手続きを進める必要はありませんが、クレジットカードを止めたり、電気やガスなどのライフラインをストップしたりは早めにやった方がいいですね。

有野:そうか。自分はポックリ逝きたいって思ってたけど、そうなると残った家族は大変ですね。誰しも経験することやろうけど、バタバタするなぁ。感情的になりたいけど、事務的なものもあるのか。お通夜で来た人が「お気持ちをしっかり持って」って言うのは、こういう手続きものも済ませてください、って言うのも含むのかな。

井戸:死亡届の提出や葬儀に関連することは、葬儀社が代行してくれたり、相続に関しても、財産の管理を信託銀行に任せていれば、相続に関する手続きをやってくれたりしますが、費用がかかるので、実際には自分たちでやるケースが多いでしょう。相続に関しては、財産の評価や限定承認を経た後、遺産分割の協議に入ります。

有野:限定承認ってなんですか?

井戸:相続する人が、亡くなった人の財産から借金などがあれば清算をして、残った財産を引き継ぐことです。財産以上に借金が多い場合は、「相続放棄」を考えることになりますが、限定承認も相続放棄も、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申し出をする必要があります。

有野:ドラマとかで見ますけど、やっぱり遺産分割協議って、ホンマに揉めたりするもんなんですかね?

井戸:もちろんケースバイケースですし、当然、スムーズに終わることもたくさんありますよ。これは私の感想ですが、遺産が相続税のかからない程度の金額だったり、故人が住んでいた家一軒だけだったりするほうが、揉めやすい気がします。

有野:え~、莫大な財産があって取り分で揉めるんじゃないんですね、意外! 「アニキが親父の介護頑張ってくれたから良いよ」とか、どうぞどうぞ、じゃないのか。なんで揉めるんですか?

井戸:故人と同居していた兄弟姉妹がいる場合、家を売ってしまうと出ていかなければならなりませんし、兄弟姉妹が住み続ける場合は、遺産が一切入ってこないことになります。それに、亡くなった本人が口頭で「あいつには相続しない」などと周りに告げていたとしても、相続には「遺留分」という、法的に認められた最低限の遺産取得分があるので、それを主張する兄弟姉妹が出てきたり。

有野:口頭だったら、言うた言うてへんにもなるもんな。だったら、遺言書に「あいつにはあげない!」って書いてたらどうですか?

井戸:基本的には、遺言書よりも遺留分の方が強いので、遺言の主張は認められない可能性が高いですね。遺産分割協議が終わったら、財産の換金や名義変更をして、そのと相続税の申告をする流れになります。

有野:ウチの父親が亡くなった時は「遺留分」も「限定承認」て言葉も聞いてないから、まだ末っ子扱いされてたのかなぁ? 妻の義父さんが亡くなった時はねえ、「みんなで見た隅田川の花火大会綺麗やったですねぇ」とか話しかけながら、僕はずっとお墓を拭いていたんです。そうしたら、親戚のおっちゃんに見られてて、褒められました(笑)

井戸:それが一番の孝行かもしれませんね(笑)

「遺言書」と「エンディングノート」の違い

井戸:遺産分割協議では、揉め事がないのが一番ですが、やはりお金に絡むことなので、どうしても揉めるケースが少なくありません。

有野:多いから揉めると思ってたけど、少なくても揉める。「あるんやったら欲しい!」って、それは思いますよね。でも、揉め事を避けるには、やっぱり遺言書とかエンディングノートを用意しといたほうがいいんでしょうね。そういえば、遺言書とエンディングノートって、どう違うんですか?

井戸:勘違いしている方もいるようですが、遺言書は民法の規定にキッチリのっとったものでないと、遺言書とは言えません。口頭による伝言はもちろん、本人が書いたメモ書きだったり、本人の言ったことを第三者が書き記したりしたものは、正式な遺言書にはならないんです。エンディングノートは、あくまで本人の意向を残すための「メモ」ですし、遺言書としては扱われません。

有野:封筒に入れて閉じて「遺言書」って書いてたらいいんじゃないねや! 「それは効果がありませんよ」って、相手の弁護士に言われたりするのか。まさにドラマで揉めそうな感じのやつですね、「お前が遺言書を改ざんしたんだろ!」とか(笑) それで、一生懸命書いたのに「エンディングノート」はメモ程度かぁ。まあ、いろんなパスワードが書いてる、しっかりした「メモ」か。

井戸:遺言書は、自宅で保管していると紛失や発見されない、もしくは有野さんがおっしゃるように改ざんされるリスクがあるので、「遺言執行者」に指定した弁護士か貸金庫に預けておくといいかもしれません。実は、2020年から法務局が自筆の遺言書を預かってくれる制度がスタートしたので、法務局に預けるのでもいいと思います。

有野:法務局が預かってくれる! へぇ〜、国が個人の遺言書を預かってくれるんや。これは改ざん出来まへんな。でも、国に預かってもらう遺言書って、規定があったり、なんか大変そうですね。「字が汚いから書き直し」とか言われたら嫌やなあ。ちゃんと用意しておかないといけないものなんですか?

井戸:遺言書でできることは、主に財産の処分、相続、婚外子などの認知や相続人の廃除など。エンディングノートと比べると、遺産配分を自由に決められたり、相続人ではない第三者への分与ができたり、寄付をしたりなど、遺産配分に対して自由度が高いのが特徴です。正式な遺言書を残しておけば、遺産分割協議の開催も必要ありません。

有野:「世話になったから、マネージャーにも財産を残してやろう」っていうのは、エンディングノートじゃあかんってことか。でも、そんなん誰か残す人おったかなぁ……松竹芸能の後輩か? クロちゃんにも財産の一部を? 絶対散財されるやん、アカン。ん、前回もこんなん考えてたな(笑)

井戸:正式な遺言書は弁護士の立ち合いの元で作成する必要があるなど大変ですし、一般的なご家庭なら、エンディングノートを作成しておくだけでもいいと思いますよ。財産の内容をはっきりと書き残したり、感謝の気持ちを残したりするのは、エンディングノートで十分できますからね。法的な効力はありませんが、遺産分与に関して意向を伝えることだってできます。それに、エンディングノートには、本人の死後の対応や、この情報はどこに聞けばいいなど、連絡先が書いてあるので、親だけでなく、自分や配偶者用にも用意しておくと、意外と重宝するかもしれません。

有野:先生、僕みたいな「オタク」用のエンディングノートってないんですか? 高額でフィギュアを買い取ってくれる店や、高く売れそうなネットオークションの情報が書いてあるような。

井戸:ちょっと私にはわかりかねますね(笑)

有野:あったら割と便利だって思う人いそうなんですけどねぇ。もうお店には登録しておいて、「亡くなったらお電話1本で査定に伺います」ってなってたら、便利やねんけどなぁ。

井戸:有野さんが作ればいいんじゃないですか、「有野がおすすめするオタク用エンディングノート」って(笑) 出版社に企画を持ち込めば本当に作れるかもしれませんよ!

有野:おお、面白そうですね! ただ、自分のエンデイングノートもまだやのに、人の心配してる(笑)

「想定外のこと」は想定外に起こる

井戸:ここまで駆け足で「終活」についてお話ししてきましたが、いかがでしたか?

有野:先生がちょいちょい関西弁を混ぜてくれるんで、親近感が湧いて興味深く聞けましたし、今まで考えてこなかったテーマだったので、すごく勉強になりました。ちゃんとやろうと思いました。

井戸:ごめんなさい、舌が温まってくるとついつい関西弁が出てまうんです(笑) 私もそうでしたが、「終活」は実際に自分が身近な方の死を体験してみないと、必要性がわかりづらりですよね。また、なんとなく必要性に気付いてはいても、「自分や、自分の親はまだ大丈夫」などと考えてしまいがちです。

有野:そうなんですよね。これは生き死にだけの話じゃなくて、いろいろなことに当てはまると思うんやけど、「何が起こるかわからない」って言われても、実際に自分の身に起きてみないと、必要なことがわからないんですよね。残された人の事を考える、って事ですね。

井戸:それはもう人間の性なので仕方ない部分はあるでしょう。それに、元気なうちは「終活」というテーマに取り組みづらいのも仕方ありません。ただ、人生では「想定外のこと」は想定外に起こるもの。自分が元気なうちでないと、準備が難しくなる可能性もあります。

有野:おっしゃる通りです。元気じゃなくなってからだと、手続きや整理を進めなあかん状況でも、面倒になってしまう気がするんです。

井戸:自分だけのことならまだしも、「終活」は親や配偶者、子どもや孫にまで関係してくること。慌てる必要はないので、家族と話し合いながら、「できることから、少しずつ」で進めてもらえればいいと思います。有野さんは、とりあえずグラビア写真集の整理を早いところ終えて、次に取り掛かってくださいね(笑)

有野:おっしゃる通り! グラビアの整理が終わったら、次はゲームにフィギュアやろなぁ。それに漫画も! やっぱり、オタク用のお店が載ったエンディングノート作った方が早いかな(笑) 先生、ありがとうございました!

8月からは、個人投資家でCFPの藤川里絵( @Forangina )先生をお迎えし、「株式投資」について学んでいきます。次回は8月1日配信予定。

有野晋哉
1972年2月25日生まれ。大阪府出身。テレビやラジオ、CM、雑誌の連載などマルチに活躍。コンビで公式YouTube「よゐこチャンネル」も開設しており、幅広い世代から支持を得ている。自身が50歳を迎えた2022年に、お金にまつわる知識の大切さに目覚め、日々勉強中。

井戸美枝
井戸美枝事務所代表。神戸生まれ、関西大学社会学部卒。1990年に社会保険労務士の資格を取得し、神戸市内に社会保険労務士事務所を設立。1993年にはAFPの資格を取得。1996年にはCFP認定者となり、社保労務士に加えてFP業務も展開する。生活に身近な経済問題や年金・社会保障問題を中心に、新聞や雑誌で連載を持つなど幅広く活躍。「難しいことでもわかりやすく」がモットー。著書に『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)ほか多数

ライター:新井奈央

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