山本尚貴「いい意味で裏切られました」シビック・タイプR-GTの初走行の印象と新車への責任感

 7月25日に岡山国際サーキットで行われた3メーカー合同テストでシェイクダウンされたホンダの2024年GT500新車両シビック・タイプR-GT。その最初のステアリングを握った山本尚貴がセッション後、共同取材に対応。この日初めて乗ったシビック・タイプR-GTの感想、そしてシビックに懸けるホンダ陣営、そして自身の想いを代弁した。

 テスト初日、午前のセッションで33周を走行したシビック・タイプR-GT。ステアリングを握った山本尚貴の穏やかな表情からも、初走行が充実していたことが伺えた。

「感想はいろいろあるのですけど、まずは今回のテストが走り始めでシステムチェック等を含め、比較的スムーズにできたかなと思います。事前に決められたテストメニューがいろいろあるのですけど、午前中は外装が変わったということで、特に空力関係と実走データを蓄積するために、午前中のセッションを使って走っていたという感じです。その中である程度、比較的予想どおりだった部分と予想と違った部分があって、やはり走ってみないとわからないことがあるなと、改めて思いました」

 そのメニューは予定どおりこなすことができたのだろうか?

「予定どおり以上だと思います。初走行ですので、もうちょっとマイナートラブルとかがあるのかなと思っていましたが、セッション途中でデータの通信のエラーがあったくらいでクルマ自体のトラブルは何もなかったですので、HRCのスタッフは本当にこのシェイクダウンに向けてクルマをしっかりと仕上げてくれたと思います。このシビックをベースにGT500に参戦することのホンダ、HRCのスタッフの意気込みや想いが込められていることを最初のセッションで感じました。あとは僕たちドライバーと開発陣で、このクルマを速く走らせられるように来年の開幕戦に向けて頑張っていきたいですね」

 2014年にNSX CONCEPT-GTがデビューし、現行のFRのNSX-GTが2017年にデビューした時以来の完全ニューマシンとなるシビック・タイプR-GT。その新車のシェイクダウンは、2度のGTタイトルを獲得したベテランの山本にとっても格別なものだった。

「シビックの1周目の感触よりも、まず僕がGT500の新車をシェイクダウンするのがの2台目でして(FRのNSX-GT以来)、どちらかというと、出来たての新車のシェイクダウンを担当する高揚感がありました。新車のシェイクダウンを担当するのは誰でもできることではないですし、これまでの信頼とか実績とかを加味して頂いている任されていると思いますので、普段のレースよりも変な緊張感がありましたね(苦笑)。ですので、最初はドキドキしながら乗っていましたね」

 その走行では、サインガードのスタッフと無線で多く話す姿が見られた。

「比較的、自分が感じたことと同時に、今のGTはどうしてもデータで綿密に見ないといけない部分があるので、車高やエアロの感度など、開発陣が取りたいデータが取れているがどうか。僕のフィーリングやコメントと、クルマのデータが取れていいるのかを無線でやり取りしていました」

 コース上の走行では、33周を走行しながら、見ている範囲では縁石に触れないように走っているように見えた。

「そうですね。そういうテストメニューの項目がありまして、なぜかは言えないのですけど(苦笑)、なるべくクルマの姿勢を変えないで走るのが午前セッションでのターゲットのひとつでした」

 縁石いっぱいに走っている他車に比べて、当然、ライン取りは厳しくなる。そのメニューからも、午前のセッションではタイムをほとんど意識していなかったことが伺える。

「タイムモニターも車内になかったですし、自分が周りに比べて遅いのか速いのかもわからなかったのですけど、唯一聞けたのが、最初のアウティングの時(3車が最初のニュータイヤで走行したあと)のタイムでして、そのタイムを聞いた時には『んっ!?』と。『どうして一番なんだ?』と。出来立てほやほやとはいえ、事前にシミュレーターを使ってテストをしてきて、なんとなくドライバーも開発陣も予想値はあったのですけど、感想としては、いい意味で裏切られることが多かったですね」

 当然、まだ比較はできない状況ではあるが、現行のNSXと比べてどのような違いが感じられたのだろう。

「NSXはもう何年も乗ってきてデータの蓄積も多くて、今は突き詰めたところの状態になっているので、走り始めたばかりのシビック・タイプR-GTと比べると当然、シビックにはまだまだ足りていない部分があります。その足りていない部分は素性として足りていないのではなくて、まさに今、クルマの特性を含めて自分たちも把握している状態ですので。まだ100パーセントでアタックするような走行もしていなければ、シビック・タイプR-GTに合ったタイヤをチョイスできている段階でもないので、一概にポテンシャルを比較して評価することは難しい部分がありますけど、自分が思っていたよりも結構、走るなと思いました」

 ここで改めて、5ドアのシビックがホンダの時期GT500車両となったこと、そして今回の外観のデザインを見た率直な感想を聞いてみた。

「正直な感想としては、あまり『5ドア感』がないなと思いました。デザイン的には5ドア感を薄めて2枚ドアのスポーツカーのように見せる工夫をしてもらったと思うのですけど、実際にシビックは自分でも所有しているクルマですので、そのクルマがGT500になるとカッコイイなと。純粋にそう思いましたし、5ドアのクルマが他の2枚ドアのクルマとどう勝負できるのか、不安ではないですけどきちんと走れるのかなという思いはありましたけど、実際に走ってみると『普通にGT500マシンだな』と(笑)。乗っていて楽しかったです」

「もちろん、これが実際のレースや予選でコンマ1秒、1000分の何秒を突き詰めるような次元の走りになると楽しんでもいられなくなるのでしょうけど、みんなでイチから作り上げたクルマを我が子のように送り出して、成長を見守る、速くなっていく過程を見られるのは、やっぱり開発ならではの楽しみですし、ファンの皆様にも伝わればいいのですけど、個人的にはこれだけ多くのスタッフと一緒に勝ちに向かって作り上げるこの新車開発に面白味と、やりがいを感じています。今は楽しさしかないですね」

シェイクダウン初日にノートラブルで79周を走行したシビック・タイプR-GT

 5ドアのシビックのGT500化には、ファンの視点からは肯定的な意見だけではないことは山本も承知している。現在のスーパーGTを取り巻く状況、そして自動車メーカーとスーパーGTの関わりについて、ドライバーとしての立場から意見を述べた。

「ひと昔前のGT500は毎年大きく外装が変わったりして、それもGTの魅力のひとつでもあったのですけど、近年のレギュレーションではそこまでの大きな外板の変更はできないですし、開発が凍結されてコストの面も考えなければいけないので、致し方ない部分はあります。シビックが次期GT500車両になることに否定的な意見があることは僕も理解できる部分はあるのですけど、今のGT500のレギュレーション下でこのような話題となって変化を与えるには、車種を変えるしか手段はありません」

「ホンダがシビック・タイプRでGT500に出るという決断をしてくれたからこそ、こういう楽しい時間を過ごすことできている。スーパーGTを盛り上げるためにも、毎年同じことを続けていても盛り上げに欠ける部分はありますので、GT500に出られる車種があってよかったですし、そしてシビック・タイプR-GTをこのようにGT500用に仕立ててくれて感謝というか、また一段、やりがいを感じています」

 まだまだ取材制限があるものの、今回のシェイクダウンではJ SPORTSが中継を行い、ホンダがオンラインでシビック・タイプR-GTの会見をテスト現場から報道するなど、これまで極秘裏にシェイクダウンしたり、厳格に規制されていたGT500の新車両のテストとは大きく雰囲気が変化がしつつある。

 果たして5ドアのシビック・タイプR-GTが今後どのような過程を経ていくのか、来年の開幕戦まで楽しみが続きそうだ。

順調に周回を重ねたシビック・タイプR-GT
取材に応える山本尚貴の表情からもシビック・タイプR-GT初走行の充実ぶりが伺える

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