緊張の中、冷静な一振り 文星付の黒崎 16年ぶりの夢乗せた放物線描く

9回、文星付の黒崎が左越えにサヨナラ本塁打を放つ

 16年ぶりの夢を乗せた白球はきれいな放物線を描き、左翼スタンドに突き刺さった。「自分が歴史を変えたんだ」。文星芸大付の黒崎翔太(くろさきしょうた)は右拳を何度も天に突き上げ、ダイヤモンドを回った。

 1点リードの九回表2死。作新学院の打者を見逃し三振に仕留めたと思い込み、マウンドに走りかけた。しかし判定はボール。「審判さんから『早まるな』と。それだけ甲子園への思いが強かった」と苦笑い。直後に追い付かれたが、「まだ裏の攻撃がある」。緊張感が増した局面で自分でも驚くほど冷静だった。

 迎えた最終第5打席。捉えた2球目のスライダーは「打った瞬間」の手応えだった。「投手が頑張っていた。何とか打ちたかった」と終盤もつれた熱戦に一振りで終止符。サヨナラ本塁打で夏の決勝が決着するのは、45年ぶり2度目だった。

 同じ捕手として社会人の三菱ふそう川崎時代には日本代表にも選ばれた高根澤力(たかねざわつとむ)監督の存在が大きかった。2年半で配球の妙を学び、打者の心理や構え方も踏まえ、投手を導く洞察力を徹底的に磨いてきた。

 「ボールはしっかり拭いて返すなど投手への気遣いも大切。捕手の在り方を教わった」。今大会は全5試合にフル出場。強打の作新学院打線を八回まで1失点に抑えられたのは、「攻めの配球」を貫いた好リードがあったからこそだった。

 扇の要は聖地で躍動する姿をすでに描く。「自分はホームランバッターではない。鋭く低い打球を心掛けたい」と語り、「審判のコールは最後まで聞きます」とも。充実感がにじむ笑顔は真夏の日差しを浴びて輝いていた。

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