トライトンの第一印象は「結構走れる」とAXCR初参戦の田口勝彦。ドライバーを成長させる“増岡流”愛のムチ

 2022年11月26日、WRC世界ラリー選手権での成功で知られ、かつてパリダカと呼ばれたダカールラリーでも栄冠を勝ち取ったラリーのミツビシが“復活”を果たした。この日、東南アジアのカンボジアでAXCRアジアクロスカントリーラリー2022の競技最終日が行われ、『ミツビシ・トライトン』が総合優勝を飾ったのだ。

 あれから7カ月、ミツビシはタイで新型『トライトン』を世界初公開した。ディフェンディングウイナーであるチーム三菱ラリーアートは、完全新設計のピックアップトラックをT1仕様に改造し、大会2連覇を目指してふたたび過酷なラリーに挑む。同チームを率いる増岡浩総監督と、2年目のチームに加入し来月タイとラオスで開催されるAXCR2023で『トライトン』をドライブする田口勝彦が、7月6日に三菱自動車本社で行われた取材会に登場。2023年大会に向けた準備状況や意気込みを語った。

■新車ながら事前の耐久試験でノントラブル

 昨季2022年、ミツビシが先代のトライトンで初参戦・初優勝を達成したアジアクロスカントリーラリーは、今年で28回目の開催を数えるアセアン地域最大級のFIA国際自動車連盟公認クロスカントリーラリーだ。2023年大会は8月13日(日)にタイのパッタヤーをスタートして進路を東にとり17日(木)に隣国ラオスへ入国。そして19日(土)に同国のパクセーでフィニッシュを迎える。コースは山岳地帯や密林地帯、泥濘路、川渡りなど変化に富み、これらの難コースの全長は約2000kmにおよぶ。

 そんな過酷なラリーで前年の再現を狙うチーム三菱ラリーアートは、9年ぶりに刷新された新型トライトンをベースに開発したT1仕様(改造クロスカントリー車両)計3台を今大会に投入する。このニューモデルは、国内での耐久試験とタイでのテストによって3台で合計2000kmを走破済み。耐久性と信頼性が確認されている。

 この段階で大きな手応えを掴んだという増岡総監督は、新型ラリーカーでのテストを次のように振り返った。

「ラフロードをほぼフルスロットルで走り抜けて、3台のクルマで延べ2000kmを超える距離を走りました。新車なので我々でさえスペアパーツが充分に手に入らないような状況だったのですが、本当に今までのトライトンのDNAを継承して主要なトラブルなし。ノントラブルで走ってきて、ラリーに向けて耐久性というものを本当に体感するとともに大きな手応えを掴んできました」

■“2プラス1”から3台体制へ

 今年トライトンのラリーカーをドライブするのは、2022年大会ウイナーのチャヤポン・ヨーター、昨年は1回のパンクに泣き総合5位となったリファット・サンガー、そして2度のAPRCアジアパシフィックラリー選手権王者にしてミツビシワークスからWRCへの参戦経験も持つ田口の3名だ。

 ミツビシチームは2022年も3台のトライトンを投入したが、そのうちの1台はサポート要員であった。増岡総監督は今季この体系を変更した。

「監督の立場としては、狙うのは1位だけなので誰が勝ってもいい。3人のドライバーに対して平等にチャンスを与えています」と語った同氏は、全員が優勝争いに加わることを期待している。

「我々は3台体制でAXCR2023に臨みます。昨年は2プラス1。2台の競技車に対して1台がサポートを兼ねるという状況だったのですが、今年は3台をラリースペックで作ってですね、とにかくこの3人のドライバーでトップ争いをしてもらいたい、という思いです」

AXCRアジアクロスカントリーラリーで2022年に続く大会2連覇を狙うチーム三菱ラリーアートの新型トライトンT1仕様
3月のバンコク国際モーターショーで披露された新型トライトンのコンセプトカー(XRTコンセプト)は、岩石をモチーフとしたシルバーとブラックのカラーリングが施されていたが、新型ラリーカーでは湧き上がる溶岩のエネルギーをイメージしたレッドとブラックのカラーリングに改められている。

■“増岡流”ドライバーを速くする秘訣

 起用した3人のドライバーの印象や期待感については、「(2022年の総合優勝を経て)さらにスキルが上がって、非常に自信を持ってクルマを操っている」とヨーターを評価。また、新たに起用した田口にしても「実績充分」と評し、「スピードと実力を兼ねたドライバーです。アジアを拠点に長くランサーエボリューションで頑張ってくれて、ジャングルの中のぬたぬたのマッディな路面を相当走り込んでいると思うので、期待するところは大きいです」と続けた。

 一方で、昨年がクロスカントリーラリー初挑戦となったサンガーには、成長を願う想いから熱血指導が飛び出した模様だ。

「彼は『自分でここまで』とバリアを作ってしまうドライバーなんです」と総監督。「テストで彼の横に乗ったとき、大きなジャンピングスポットで『ブレーキ踏むな! アクセル踏んだまま行け』と言って……大ジャンプの後に『ほら、行けただろ』と」

「そうやって殻を破ってやるのもドライバーを速くするひとつの秘訣だと思うので、彼は今年また、ひとつ成長したと思います」

大会2連覇を狙う今季の体制や新型トライトンのラリーカーについて説明する増岡浩総監督(左)。新加入の田口勝彦(右)は保井隆宏とのコンビで人生初のクロスカントリーラリーに挑む

■ガソリン車とディーゼル車での走らせ方の違いに直面

 昨年のサンガーと同様に、クロスカントリーラリーに初めて挑む田口は、テストでステアリングを握った新型トライトンにポジティブな印象を抱いている。田口曰く、タイでのテストはチームメイトたちが「本番よりも過酷」と言うほど非常に過酷な路面だったが、そこでの第一印象は「結構走れるぞ」というものだったという。

 トライトンは彼がこれまで乗ってきた市販車タイプのラリーカーとはタイプが大きく異なるため、そこに不安も感じていたという元APRC2冠王者。しかし実際には「非常に乗りやすく、ぱっと乗ってそれなりに走れてしまう。そういう状態でしたので自信になりました」と彼は語った。

 対してドライビングの修正を要する点としては、エンジン特性からくる走り方の違いを挙げている。WRCやAPRC、ダートトライアルなどで活躍してきた田口は、過去にディーゼルエンジンを搭載した競技車両をドライブした経験がなかった。そのため、今回のテストではコドライバーシートに座った総監督から“回しすぎ”を指摘されたという。

「私はこれまで、競技でディーゼルエンジン車を走らせたことがないんですね。今回増岡さんが横に乗って指摘されましたけど、やっぱりついついエンジンを回しすぎてしまう。僕らがやってきたのはエンジンが絶えずタイヤを掻いている状態で乗るラリーで、タイヤがある程度とろとろっとグリップしているようなところ、下の回転で走るということをしたことがないのです。ただし(トルクのあるディーゼル)エンジンの特性上、その方が速いコーナーがあるんですよね。そこのところを本番では2日くらいで学んでいきたい思っています」

「ハンドリングについては別になんとも思わないくらい乗りやすかったですし、重量もウエットではまだ走っていませんがドライではブレーキングポイントもちゃんと合わせていけてましたから、それも問題ないと思います」

 人生初のクロスカントリーラリーに保井隆宏とのコンビで挑戦する田口は、ラリーの序盤を学習に充て後半に巻き返しを図るつもりだ。

「全体的に結構行けるなんじゃないかという手応えもあり、この後まだ走っていないハイスピードのところなどは本番でアジャストしていきます」と51歳の田口。

「もちろん、初めてですから序盤はゆっくり、後半に向けてだんだんペースを掴んでいき、自分の得意するハイスピードなフラットダートでタイムを稼いでいって……昨年に引き続き2連覇を目指すミツビシチームに貢献できたらいいなと思っています」と意気込みを語った。

■チーム三菱ラリーアート AXCR2023参戦体制

総監督:増岡浩(三菱自動車)
チーム代表:シャユット・ヤンピシット(タイ:タントスポーツ)
テクニカルディレクター:コーポン・アマータヤクン(タイ:タントスポーツ)
テクニカルサポート:
 相羽規芳(三菱自動車:車体)
 柴山隆(三菱自動車:エンジン)
ドライバー/コドライバー:
 チャヤポン・ヨーター(タイ)/ピーラポン・ソムバットウォン(タイ)
 リファット・サンガー(インドネシア)/シューポン・シャイワン(タイ)
 田口勝彦(日本)/保井隆宏(日本)

事前のテストにおいて3台で延べ2000kmを超える距離を走破しているミツビシ・トライトンのAXCR参戦車両
計3台のミツビシ・トライトンを操るのは、前年王者のチャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組、前年5位のリファット・サンガー/シューポン・シャイワン組、新加入の田口勝彦/保井隆宏組の3組だ。
AXCRアジアクロスカントリーラリー2023には計3台の新型『ミツビシ・トライトン』T1仕様と、総監督車を含め合計4台の『ミツビシ・デリカD:5』サポートカーが投入される。

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