F1とのつながりを強く感じさせるホットなフレンチモデル/ルノー・アルカナ&ルーテシア試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太がルノーのSUV『アルカナ』とBセグメントハッチバックの『ルーテシア』に設定されている“E-TECHフルハイブリッド”グレードを試乗する。独自に開発したハイブリッドシステムで輸入車全体でナンバーワンの燃費を達成した最新ルノー勢の魅力を深掘りする。

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■F1テクノロジーで走りと低燃費を両立したフルハイブリッド

 ルノーはCセグメントSUVのアルカナとBセグメントSUVのキャプチャー、それにBセグメントハッチバックのルーテシアのそれぞれに、『E-TECH(イーテック)フルハイブリッド』を設定している。日本市場への導入は2022年に始まった。アルカナはマイルドハイブリッド車、キャプチャーとルーテシアはガソリンエンジン車との併売だ。圧倒的に人気なのは『E-TECHフルハイブリッド』で、全体の6〜7割に達するという。それだけ魅力的ということだ。

 ルノー・ジャポンが購入者を対象に調査したところ、アルカナ、キャプチャー、ルーテシアとも「気に入っているポイント」の1位はハイブリッドシステムとの結果になった。以前は外観デザインが1位の定番だったというから、大きな変わりようである。

 アルカナ、キャプチャーの『E-TECHフルハイブリッド』のWLTCモード燃費は22.8km/Lで、輸入車SUVナンバーワン。ルーテシア『E-TECHフルハイブリッド』のWLTCモード燃費は25.2km/Lで、輸入車全体でナンバーワンの燃費である。

 ルノー・ジャポンの関係者は「まさか、ルノーが輸入車燃費ナンバーワンと言える日が来るなど、夢にも思っていませんでした。ルノーがこのような燃費値を出せることを誇りに思っています」と口にした。

ルノー・アルカナ
ルノー・ルーテシア『E-TECHハイブリッド』

 ルノーの『E-TECHフルハイブリッド』が好燃費を叩き出す理由は、独自に開発したハイブリッドシステムにある。エンジンはルノーとアライアンスパートナーを組むニッサンが開発したHR16DE型(ルノー側の呼称ではH4M型)の1.6リッター直列4気筒自然吸気ガソリンを積む。最高出力は69kW/5600rpm、最大トルクは148Nm/3600rpmだ。

アルカナはH4M型1.6リッター4気筒エンジンと2基の電動モーターを組み合わせるハイブリッドシステムを採用。WLTCモード燃費は22.8km/Lを達成。

 このエンジンに組み合わせるハイブリッドパワートレーンをルノーは『電子制御ドッグクラッチマルチモードAT』と呼ぶ。AT(オートマチックトランスミッション)というとプラネタリーギヤ(遊星歯車)を用いた自動変速機が思い浮かぶが、ルノーの電子制御ドッグクラッチマルチモードATの場合はMT(マニュアルトランスミッション)の変速を自動化した構造に近い。

 プラネタリーギヤではなくヘリカルギヤ(はす歯歯車)の組み合わせだ。MTの場合は変速ショックをやわらげるためにシンクロナイザー機構(回転同期機構)を設けるのが一般的だが、E-TECHフルハイブリッドはダイレクト感と変速時間、伝達効率を重視し、シンクロナイザーを使わずドッグクラッチを採用した。

 ドッグクラッチといえば、F1をはじめとするレーシングカー用トランスミッション内の力の伝達を切ったりつないだりする機構として一般的である。『E-TECHフルハイブリッド』はそのドッグクラッチを使っているので、ルノーは“F1で培ったノウハウを活用”と喧伝しているわけだ。

ルノー・ルーテシア『E-TECHハイブリッド』。電子制御ドッグクラッチマルチモードAT

 ドッグクラッチはダイレクト感と伝達効率に優れる半面、乗用車に適用した場合は変速時のショックと音が課題になる。これらの課題を解決するため、『E-TECHフルハイブリッド』では走行用のEモーターに加え、HSG(ハイボルテージ・スターター&ジェネレーター)と呼ぶふたつめのモーターを採用した。Eモーターは最高出力36kW/1677-6000rpm、最大トルク205Nm/200-1677rpmを発生。HSGは最高出力15kW/2865-10000rpm、最大トルク50Nm/200-2865rpmを発生する。

 エンジンと走行用モーター、それぞれ効率のいい領域を使うため、エンジンは4速、走行用モーターは2速で変速可能な構成。アップシフトの際はHSGを使って次の段の回転を現行段と同期させ、スムーズかつ素早い変速を行う。

 『E-TECHフルハイブリッド』は発進時、必ずモーターのみによるEV走行を行う。バッテリー残量によってはエンジンを始動させ、HSGで発電した電力をバッテリー経由で走行用モーターに送るシリーズハイブリッドモードで走ることもある。ドライバーが強い加速を要求した場合は、走行用モーターとエンジンの動力を混合して走るパラレルハイブリッドモードに切り替わる。

 モーターをふたつ持つ利点を生かし、エンジンと走行用モーターの動力を混合して走りながら、HSGで発電するシリーズパラレルハイブリッドモードで走る場合もある。MGU-H(熱エネルギー回生システム)こそ持たないが、F1のパワーユニットと同様、複雑なエネルギーマネジメントを澄まし顔で行うのが、ルノーの『E-TECHフルハイブリッド』だ。

 制御が賢くて燃費がいいだけでなく、走りもすばらしい。それが、購入したユーザーが「気に入っているポイント」に挙げている大きな理由だろう。総電力量が1.2kWhという、同クラスの国産ハイブリッド車よりも2割程度大きな電力量を生かし、EV走行でカバーする領域が広いのが特徴。バッテリー残量にもよるが、緩い加速を維持しながら走れば、発進から100km/hの巡航までEV走行でこなす。それゆえか、国産同クラスのハイブリッド車に比べ、電動車としての味わいが濃厚だ。

 エンジンがかかった途端に騒々しいノイズでムードが台無しになるハイブリッド車も世の中にはある。ところが『E-TECHフルハイブリッド』の場合は、エンジンが始動し、走行用モーターの動力を混合して走るモードの走りがスポーティで楽しい。

 楽しさを生み出す理由のひとつは、ダイレクトかつ伝達効率の高いパワートレーンにある。制御も絶妙で、強く加速した際はMTがシフトアップしていくように、リズミカルなサウンドを響かせる。追い越しなどの際にアクセルペダルを踏む右足の力を強めると、間髪入れずにモーターのアシストが介入し、グッと背中を押してくれるのも、『E-TECHフルハイブリッド』に対する好感度を向上させるポイントだ。

 そして、燃費がいい。ちょっと付き合ってみればわかるが、モード燃費を上回る数字を叩き出すことが珍しくない。気持ち良く走って燃費がいいのが、『E-TECHフルハイブリッド』の魅力だ。

 その『E-TECHフルハイブリッド』に新たな設定が加わった。『エンジニアード』の名称を持つグレードで、アルカナ『E-TECHエンジニアード』は5月11日から、ルーテシア『E-TECHエンジニアード』は6月29日から販売が始まっている。

アルカナのボディサイズは全長4570mm、全幅1820mm、全高1580mm。最低地上高は200mmを確保する。
ルノー・ルーテシア 『E-TECHエンジニアード』

 両車ともエクステリアおよびインテリアにウォームチタニウムカラーの差し色が施されているのが特徴。フロントバンパーは「ウォームチタニウムF1バンパー」で、F1マシンのフロントウイングがモチーフ。F1参戦活動は2021年からアルピーヌに引き継がれているが、源流がルノーであることは間違いない。

 ルーテシアとアルカナ『E-TECHエンジニアード』は、ハイブリッドシステムといい、エクステリアのアクセントといい、F1とのつながりを強く感じさせるホットなフレンチモデルだ。

アルカナのフロントデザイン。ルノーのアイデンティティであるCシェイプデイタイムライト・デザインを継承する。
ルノー・アルカナ 『E-TECHエンジニアード』のフロントシート
ルノー・アルカナ 『E-TECHエンジニアード』のリヤシート
ラゲッジ(通常時)の容量は480リッターを確保。リヤシートは左右6対4分割式で格納可能。
ルーテシアもCシェイプデイタイムライト・デザインを継承。ヘッドライトはフルLED式。
ルノー・ルーテシア 『E-TECHエンジニアード』のフロントシート
ルノー・ルーテシア 『E-TECHエンジニアード』のリヤシート

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