日本一長い距離を走る路線バス

日本一長い距離を走る路線バスが奈良交通にある。奈良県橿原市の八木から和歌山県新宮市の間169.8キロを約6時間半で結ぶ。高速道路を使わない路線バスで日本最長を誇る。

この路線は有名で、時々ニュースなどで取り上げられる。バス好きの方が始発から終点まで乗られる。しかし、生活路線であるため、地元利用者は通しで乗車されることはほとんどない。

長距離高速バスのような乗り心地の良い車両ではない。普通の路線バスの車両、始発から終点まで乗るとかなり疲れる。路線のほとんどが山間部で、長い峠の坂道を越えたり、谷に沿って山の中腹を縫うように走る。

道幅は狭いところもある割に、ダンプと時々すれ違う。山道でのバスとトラックの離合は見もの。無事すれ違うと乗客から自然に拍手が起きる。

バイパスができても、旧道を走る

山越えの道路は昔から災害に弱く、台風が来ると崖崩れが起きて通行止めになる。最近は長いトンネルが完成し、直線の走りやすい道路に付け替えられた部分も増えてきた。

しかし、新しい道路脇には集落はないため、住民を運ぶのが役割の路線バスは昔からの狭い道路を走る。このため、道路が改修されてもバスの乗車時間は昔とあまり変わらない。

復活する特急バス・・・チケットは完売!

1963年の運行開始時の広告

奈良交通は2023年7月に創立80周年を迎えるのを記念して、7月と8月に奈良の東大寺大仏殿と新宮との間187.2キロを約8時間で結ぶ大仏新宮線を運行する。

1983年に八木新宮間に短縮されるまでは奈良市内(大仏殿前)と新宮を結ぶ路線バスを運行していた。乗車券は予約のみの発売で、完売となった。

二番目は、いずこ?

ところで、2番目に長い距離を走る路線バスはどこにあるかご存知だろうか。

それは三重交通が運行する松阪熊野線である。三重県松阪市と和歌山県熊野市の間134キロを約4時間で結ぶ。「日本で2番目に長い」は、実際には「本州で2番目に長い」路線である。それは、北海道にこれより長い路線バスが存在するからだ。

本州で二番目、三重交通路線バス・松坂熊野線

八木新宮線も松阪熊野線も、バス旅行のファンには人気がある。しかし、その本数は少なく、ご想像の通り収支は厳しい。

地元にとっては生活路線であり、地域のために何とか存続してほしいと願っているが、人口減少と自動車へのシフトが続く限り、見通しは不透明である。

観光需要を喚起しながら、存続のため懸命の努力が続く。

寄稿者 増田充康(ますだ・みちやす) 三重交通GHD 取締役

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