「焼きごて」が痛い

 「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」で知られる作詞家で詩人、まど・みちおさんに「めだまやき」という一編がある。〈「めだまやき」ということばは いたい/いたくて こわい/いきなり この目だまに/焼きごてを当てつけられるようで…〉▲物騒なことに、目玉焼きを「目玉を焼くこと」と想像すれば確かに痛い。なにも卵に限らないが、近頃は店先で値札を見る目にも「焼きごて」を当てられている気がする。値上げの話が絶え間ない▲全国で1770万羽が処分された鳥インフルエンザの感染がようやく落ち着き、採卵も再開されているという。JA全農たまごは今月初め、鶏卵の卸値がほんの少し下がったと発表した▲総じて高値が続く中で数少ない朗報に思えたが、疫病が去っても難事は居座る。例年ならば、需要が増す冬に比べて夏場は値段が下がるというが、今年は今も大きく変わらない▲輸入に頼るトウモロコシなどの飼料の値段が高止まりしているためだという。最も痛い思いをしているのは養鶏、採卵を営む人々であるのは言うまでもない▲物の値段は以前だと、原油など値動きの激しい品々と、変動がほとんどない“物価の優等生”に分かれていた。優等生の代表格だった卵はいま、黄身と白身が入り乱れ、混沌(こんとん)とした溶き卵になっている。(徹)

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