シャッカ(アナジャコ)捕り名人・濱口さん キャリア50年 お裾分けが元気の“便り”

筆を使い素早くシャッカを捕る濱口さん=雲仙市瑞穂町古部沖

 有明海の干潟では、エビやカニに似たアナジャコ(シャッカ)を捕る伝統漁法がある。漁期は4月から10月とされるが、今が水温などの条件が良いと聞き、地域に愛される珍味を求めて「シャッカ捕り名人」の濱口和雄さん(71)=長崎県雲仙市吾妻町=を訪ねた。
 同市瑞穂町古部沖の干潟に突き刺さる10本ほどの筆。濱口さんは、わずかに上下するタイミングを見ながら少しずつ筆を上げる。アナジャコの姿が見えた。「ほら、今」。シャッカをつかみ素早く穴から取り出した。「ただつかむだけじゃだめとです」。シャッカのはさみを後ろ向きにそらせるように持たないと、自らちぎり逃げてしまう。挟まれると痛いらしく、濱口さんは白い手袋をしていた。
 シャッカは体長約10センチ、干潟に生息するエビ目アナジャコ科の甲殻類。巣穴に入ってきた異物を敵だと思い、はさみや脚でつかみ押し出そうとする。この習性を利用し巣穴に筆を入れたり、小ぶりなシャッカをおとりにして捕獲する。市場ではほぼ取引されず、入漁権を持つ人から14匹600円ほどで買うのだという。
 10年ほど前まで約20人がシャッカ捕りをしていたが最近は10人程度という。訪れた6月22日は2人だった。「(巣穴を探すため)潟ば掘るとはきつかし捕るとにこつのいるけん、わっか人はせんですもんね」。濱口さんは寂しそうにつぶやいた。
 50年以上のキャリアがある濱口さんは「7月半ばになれば殻が黒うなる」という理由で、7月20日ごろまでしか捕りに出かけない。4時間で200匹捕ることもあるというが、この日は2時間で78匹。「まずまずですね」
 下処理は妻の文子さん(69)。手際良く5回ほど真水で洗うと、泥まみれだったシャッカは淡い朱色になった。水気を切り大鍋に入れ、から煎(い)り。「天ぷらにしたらおいしかですよ。つぶしてみそば混ぜて『シャッカぬた』も」
 実は夫妻はほとんど口にしない。郵便局員だった時に世話になった人や関東の知人に送る。お裾分けされた瑞穂町の女性(62)は「90歳の母も大好物。この時期だけのエビに似た味。から煎りのままでお酒のおつまみに最高」と喜んだ。
 雨でなければきょうもあすも来年も、濱口さんは干潟に行くつもりだ。「配るとの遅れたら『病気で寝とると?』って催促されるけん」と、うれしそうに笑った。

から煎りしたシャッカ。このままでも天ぷらやシャッカぬたにしてもおいしい

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