サソリ、ヘビ、感染症の恐怖が続く日々──隣国中央アフリカに逃れたスーダン難民の生活

予防接種のため施設前に並ぶスーダン難民の子どもたち © MSF/Vivien Ngalangou

4月から始まったスーダン国内の紛争は、100日以上が経過したいまも終わりが見えない。戦火から逃れるべく国外に脱出したスーダン難民の一部は、隣国の中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)に入国している。 その拠点の一つとなっているのが、中央アフリカの北部にあり、スーダンとの国境に近いビラオ市だ。国境なき医師団(MSF)は、この地を中心に緊急対応を行っている。

先行きの見えないスーダン難民の実情

MSFは、中央アフリカ北部で7000人以上の子どもたちにはしかなどの予防接種を行い、地域住民とビラオ市に移送されてきたスーダン人難民の免疫力を高めた。

「はしかのほかに、肺炎球菌、破傷風、ジフテリアの抗原も加えて、免疫力の強化に努めています。予防できる病気は予防しないといけません」

そう語るのは、MSFの緊急対応チームの医療リーダーを務めるナタナエル・ムワンバだ。 彼がさらに状況を説明する。

「難民の皆さんは先行き不透明な状況に置かれています。彼らが暮らしているキャンプは、急ごしらえで設営したものにすぎません。受け入れ地域にかかる負担も高まっています。こういう状況では、病気も流行りやすくなります」

ビラオ市内の難民用テント © MSF/Vivien Ngalangou

サソリとヘビに囲まれる恐怖の毎日

国連によれば、4月中旬にスーダンで紛争が始まってから、1万3800人が戦闘を逃れ中央アフリカに入国している。

当初、中央アフリカに逃れてきた難民たちは、国境そばに居住することにこだわった。スーダン国内に残した親族たちと少しでも近い距離にいたいためだ。しかし、中央アフリカ政府は、ビラオ市内のコルシという地域に難民たちを移すよう決定した。避難民にとってより安全性が高く、人道援助団体にとってもアクセスしやすい場所だ。

これまでのところ、1200人がすでにコルシまで移送された。難民の大半は女性と子どもだが、彼らの中には、コルシへの移動に躊躇しているケースも多い。一家の主の同意が得られていないためだ。その結果、難民の約90%が現在も国境近辺にとどまっている。人道援助団体も活動しにくいエリアにあるため、援助を満足に受けられない状況が続いている。

一方、コルシ難民キャンプでも人びとは厳しい状況に置かれている。8人の子どもの父親で、スーダン難民の一人であるムーサさんは次のように語った。

「コルシ難民キャンプの実情を見てください。これでは、誰が病気になってもおかしくありません。生活環境が厳しすぎる。サソリに刺されたり、ヘビにかまれる危険に常にさらされています。雨期が始まれば、マラリアなどの病気も心配です。最悪の事態に備えないといけません」

コルシ難民キャンプにてインタビューに応じるムーサさん © MSF/Vivien Ngalangou

感染症対策、そして心のケアも

こうした状況の下、MSFは、コルシの難民居住地において、小児医療に重点を置いた簡易診療所を設置した。急性呼吸器感染症、マラリア、腸内寄生虫などの病気について、週に約200件の診療を行っている。

難民の多くは、紛争のなかで家族や友人を失うなど、心に傷を残す経験もしている。そこで、MSFでは、心のケアにも力を入れている。5月中旬から7月上旬にかけて、1154件の診療を行い、1463人にメンタルヘルスに関する情報を提供してきた。

さらに、MSFはビラオ市病院への支援も実施している。負傷者たちが一斉来院した時に備えて体制を強化。重症者については、容体を安定させた後、中央アフリカの首都バンギまで飛行機で移送して、必要な専門医療を受けられるようにしている。

スーダンで続く紛争の影響は深刻だ。5月中旬からビラオ市で緊急対応を開始したMSFは、中央アフリカにたどり着いた難民の医療・人道援助ニーズの大きさを目の当たりにしながら、現地での対応を続けている。

コルシ難民キャンプで、人びとにメンタルヘルスについて伝えるMSFのスタッフ © MSF/Vivien Ngalangou

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