アル・ナスルは意外な好チーム/六川亨の日本サッカー見聞録

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ネットの利便性は十分に承知しているものの、雑誌の編集者だったせいか「紙媒体」へのこだわりは捨てられないようだ。小説はタブレットではなく文庫本だし、ニュースも毎朝、新聞を読まないと一日が始まらない。

で昨日のインテル対アル・ナスル(サウジアラビア)戦である。パリSG対アル・ナスル戦はテレビで見ることができたものの、27日の試合は通信会社の始めた映像配信サービスに加入しないと見られない。結果だけはネットでチェックしたが、試合の詳細を確認しようと新聞(一般紙)を開いたところ、結果すら載っていなかったのには驚いた。

確かに親善試合だし、日本のチームが出場したわけでもないのだから、仕方がないと言えばそれまでだ。プロ野球に加えて女子のW杯があり、福岡では水泳の世界選手権も開催されている。そして高校野球の予選も佳境を迎えているだけに、スペースを割くことはできなかったのだろう。

しかし、Jリーグの関係者、とりわけ今秋から始まるACLに出場するチームはアル・ナスル(リーグは2位のため予選プレーオフから出場)の試合を見ておくべきだった。チームにはクリスティアーノ・ロナウドら外国人選手5人を擁していたものの、彼ら以外の6人はサウジアラビア人なのは当然として、演じているサッカースタイルは中東勢というよりヨーロッパ勢に近く、パリSGとも互角の戦いを演じた。

かつて広州恒大がアジアを席捲した時は、ブラジル人選手の国籍を変更するなどして強化に努めた。しかし中国人選手とのレベル差は歴然で、彼らは荒っぽいプレースタイルから墓穴を掘っていた。しかしアル・ナスルには、かつてのサウジアラビアのプレースタイル――個人技頼みのカウンター一辺倒といった名残は微塵もない。DF、MF、FWと要所要所に外国人選手を配しながら、サウジアラビア人選手も違和感なくチームとして機能している。

試合をテレビで見ながら、「勝負はさておき、マリノスやフロンターレも劣勢は否めないだろう」と思ったほどだ。それだけチームの完成度は高く、なおかつ5人の外国人枠を有効に活用していた。

J1リーグとACLの外国人枠は最大5名だが(ACLは別にアジア人枠が1名。J1リーグはタイら8か国の提携国枠1名)、その枠をフルに活用しているJ1チームはほとんどないのが実情だ。それだけクオリティの高い外国人選手を複数人獲得するだけの資金力がないというのが現実だろう。

W杯に続いて来年1月のアジアカップはカタールで開催され、2月にはパリ五輪のアジア最終予選となるU-23アジアカップもカタールで開催される。そして9月のU-23アジアカップ予選も大岩ジャパンはバーレーンで3試合を戦う。10~11月のビーチサッカーのW杯とインターコンチネンタルカップはUAEといった具合に、損得抜きで国際大会を招致できるのは中東勢に限られつつある。

春秋制から秋春制にシーズンが変わるACL。日本を始め韓国勢がどこまで中東勢に対抗できるのか。東アジアの代表が“地盤沈下”していないことを祈るばかりである。


【文・六川亨】

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