LRTは移住者呼び込む「武器」 新たなまちづくりの装置に 発進LRT③

トランジットセンターの一つ「清原地区市民センター前」停留場は目の前がバス乗降場となっており、円滑に乗り継げる=26日正午、宇都宮市清原工業団地

 「公共交通の利便性」。移住を考える人に共通する質問項目だ。JR宇都宮駅東口にある市の移住定住相談窓口「ミヤカム」では、2022年11月の開設から23年3月までに訪れた相談者、全86組が尋ねている。

 東京圏からの移住者は、乗用車よりも鉄道やバスに慣れている。「車を持たないことを前提にした生活を求めている」と相談員の稲垣文彦(いながきふみひろ)さん(55)。地方都市間で加熱する移住者の呼び込み合戦で、次世代型路面電車(LRT)をはじめとした公共交通網の再構築は「選ばれるまち」になるための武器になっている。

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 市が掲げる将来像「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」。市中心部と旧町村部間の公共交通網を充実させ、車だけに依存しない都市を目指す。

 念頭にあるのは急速に進む少子高齢化と人口減少だ。車社会の進展で広がった市内の居住地は今後、全域で空き家が増えていく。NCC化で住みやすい市街地になれば、中心部に空き家ができても、すぐに人が移り住むようになる。

 実現すれば、居住者は変わりながらも街のにぎわいは維持される。都市計画に詳しい早稲田大の森本章倫(もりもとあきのり)教授は「都市再生が安定化する」と解説する。自治体にはインフラ管理を効率化できる利点もある。

 NCCの主軸となる交通網は「魚の骨」に例えられる。背骨がLRTや鉄道、肋骨(ろっこつ)はバス、隙間を埋めるのが地域内交通だ。市はLRTの停留場全19カ所のうち5カ所に、他の交通と円滑に乗り継げるトランジットセンター(TC)を設置。路線がLRTと重複するバスは再編され、TC発着の新設路線や増便に充てられる。地域内交通は、TCなどをルートに追加する。

 「高齢者も運転免許のない人も自分の意思と力で移動できる街。市内39地区、どこも取り残さない」。佐藤栄一(さとうえいいち)市長は力を込める。

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 16年度から転入が転出を上回る「人口の社会増」が続く芳賀町。町内にはLRT整備による将来への期待感もあり、芳賀工業団地管理センター前TCに近い地区で住宅地造成の検討を進めている。

 大関一雄(おおぜきかずお)町長はLRTを「町の知名度アップ、人を呼び込む効果がある」と高く評価。町観光協会は新たな人の流れを観光振興にもつなげるため、戦略プランを策定する考えだ。

 渋滞対策から構想が練られたLRTは今、新たなまちづくりの装置として活躍の場を見いだされている。両市町は、その可能性に街の将来像を託す。

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