核抑止からの脱却訴え 故谷口稜曄さんの言葉引用 平和宣言骨子発表

2023年 長崎平和宣言(骨子)

 長崎市の鈴木史朗市長は28日、長崎原爆の日(8月9日)の平和祈念式典で読む平和宣言の骨子を発表した。核大国ロシアのウクライナ侵攻が長期化し核リスクが高まる半面、核保有国を含む先進7カ国(G7)も核抑止論を正当化する現状を受け「核抑止依存からの脱却」を訴える。原爆の熱線を浴びながら奇跡的に生還し、被爆者運動をけん引した故谷口稜曄さん(2017年に88歳で死去)の言葉を引用して核兵器廃絶を世界に呼びかける。
 4月の市長就任後、初めて祈念式典に臨む鈴木氏は「原爆によって人間に何が起こったのかという原点に立ち返り、『長崎を最後の被爆地に』と強く発信したい」と述べた。
 宣言の起草委員からはこれまで、日本政府の反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費増額への懸念を示すよう求める声が複数あった。鈴木市長は「憲法の平和理念の堅持」を求める一方、直接的な懸念は示さず「防衛費増大の原因である北東アジアの緊張を緩和し軍縮を進める外交努力」を要請する形にする。理由について「起草委員の意見以外にも、世論や有識者の意見を踏まえて総合的に判断した」と説明した。
 谷口さんは原爆で背中が焼けただれた「赤い背中」の少年として知られる。被爆者運動の黎明(れいめい)期から携わり、2010年、核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせて渡米し、非政府組織(NGO)セッションで被爆体験を証言。鈴木市長は「被爆者の象徴ともいうべき存在。核兵器廃絶に向けた情勢が厳しい中、被爆の実相を伝える上で一番いい事例だ」と述べた。
 5月のG7広島サミットについては「核戦争をしてはならないとの意志が再確認された意義」を認める一方、核抑止論を前提とした考え方を批判し「核兵器をなくすしかない」と強調する。日本政府には核兵器禁止条約への署名・批准や、被爆体験者救済も求める。
 宣言文は起草委員の被爆者や有識者ら15人で検討。英語や中国語、ロシア語など10カ国語に翻訳して市ホームページに掲載する。

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