亡きPANTAさんから打診された「幻の提供曲」畑中葉子が明かす秘話、実現ならずも続いた交流の素顔

ロックバンド「頭脳警察」のPANTAさんが肺がんによる呼吸不全と心不全のため7月7日に73歳で死去した。親交のあった畑中葉子(64)は、よろず~ニュースの取材に対し、生前、本人から曲の提供を打診されたものの、実現には至らず、〝幻の曲〟になったことを明かした。

1969年、学生運動の隆盛期で〝政治の季節〟と称された激動の時代を背景に、頭脳警察を結成。70年代前半にかけてPANTAさんは反体制のカリスマ的な存在となったが、その一方で、歌謡曲やポップスの歌手に曲を提供するという振り幅の広さがあった。

本名の中村治雄名義で作詞作曲した「ムーンライト・サーファー」は、石川セリが79年にシングル盤としてリリースし、その後も桑名晴子や渡辺美里らがカバーしたスタンダードナンバー。また、荻野目洋子のアルバム『FAIR TENSION』を89年にプロデュースし、作詞作曲した「昨日より輝いて」など3曲を同作に提供した。

さらに、作詞作曲した提供曲では、沢田研二「月の刃」、堀ちえみ「幼な馴染み」、杏里「白いヨット」などがあるほか、チェッカーズ「裏どおりの天使たち」(作詞)、岩崎良美「Vacance」(作曲)、ビートたけし「BE COOL」(作曲)といった曲で多才ぶりを発揮した。

そのPANTAさんが「僕の曲を歌いませんか?」と畑中に打診したのは2016年12月のことだった。畑中がノイズバンド・非常階段とのコラボでアルバム『畑中階段』をリリースした際、レコード会社の担当ディレクターがパンタさんの担当でもあったため、その担当者の紹介で初対面。3人で食事会を開いた際に、昭和歌謡の大御所的な存在だった女性歌手のために書いた曲の提供を打診されたという。

「PANTAさんは、ある女性歌手に書いた楽曲があり、出そうとした時にご本人が亡くなってしまったというお話をされ、『その曲を畑中さん、歌いませんか』とおっしゃった。私も『ぜひ、歌わせてください』とお願いしました。帰りに家まで車で送ってくださった道中で、私のカバーアルバム『GET BACK YOKO!!』のCDをお渡ししたら、カーステレオで聴いてくださった。その中に収録されていた日野てる子さんの『夏の日の想い出』のカバー曲を『素晴らしい。日本語がしっかりしている。こういう曲を歌えるような歌手は畑中さんしかいないかも。とってもいい』と褒めてくださった。その後、何度かやりとりはあったのですが、曲を提供いただく案は実現しませんでした」

それでも、PANTAさんは畑中の出演舞台やイベントなどに足を運んでくれたという。

「私が出演した演劇の舞台に大きなお花を贈ってくださり、PANTAさんのライブにもお誘いいただいたのですが、うかがえず、気持ちばかりのお花を贈りしたところ、その花を手にした写真を送ってくださいました。また、お世話になった(ミュージシャン)遠藤賢司さん(17年に70歳で死去)追悼ライブの打ち上げでも、出演したPANTAさんとお話させていただいた。打ち上げの場所は渋谷のB・Y・G(69年創業で、伝説のバンド『はっぴいえんど』も生演奏した老舗ロック喫茶&ライブバー)で、ムーンライダーズの鈴木慶一さんもご一緒に3人でお話して、写真も撮ったりして。大切な思い出です」

その人柄や表現者としての姿勢について、畑中は振り返った。

「優しくて温かみがあって博学で。歴史のこととか、一生懸命にお話ししてくれた。楽曲も(サダム・フセインの孫である14歳の少年が単身で米軍に立ち向かう姿を描いた『七月のムスターファ』など)すごいと思いました。こんなの歌にしちゃうんだと。ライブには残念ながら1度しかうかがえなかったのですが、ちゃんと歌詞の背景などの説明もしてくださるから、『ああ、そういうことなんだ』と伝わる。世の中の動きをキャッチして、昔からの歴史も知った上で、歌にできる。今の時代、本当に必要な方ですよね」

だが、初対面から6年半での今生の別れとなった。畑中は「お会いできたのがここ数年のことだったので、これからも末長くお話をしたかったのに残念です。私に歌いませんかと言ってくださった曲もまだ実際に聴くことができないまま、お亡くなりになってしまった。もし、かなうのであれば、その(幻となった)曲を聴いてみたい」と願った。

そんな思いも胸に、畑中は7月19日に新曲「八丈島からの手紙」(ディスクユニオン)を配信リリース。「エンケン(遠藤賢司)さんもそうでしたが、みんな亡くなってしまう。そう言う私だってそうですし。やろうとしたことは悔いのないように動いていかないと…。そんなことを思ったりしています」と心境を明かし、冥福を祈った。

PANTAさんのお別れ会「献花式・ライブ葬」は9月1日に東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催される。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

© 株式会社神戸新聞社