パリ五輪開幕まで1年 長崎県勢も有力候補が続々 連覇狙う柔道・永瀬 「経験値が一番の強み」

パリ五輪出場が期待される長崎県ゆかりの主な選手

 パリ五輪の開幕まであと1年を切った。近代五輪の父、クーベルタン男爵の出身地に100年ぶりに聖火が戻る。「花の都」で開かれる3度目の祭典。各競技で徐々に日本代表が絞られていく中、長崎県勢も柔道男子81キロ級で2大会連続金メダルを目指す永瀬貴規(旭化成、長崎市出身)をはじめ、多くのアスリートが世界最高峰の舞台に立つために力を尽くしている。長崎ゆかりの候補選手を紹介し、熾烈な代表争いの真っただ中にある29歳、永瀬に1年後のひのき舞台への思いを聞いた。

◎しのぎ削る県勢
 前回の2021年東京五輪は、長崎県のスポーツ史においても歴史的な大会となった。
 柔道男子では永瀬が金メダルを獲得。ソフトボールの藤田倭(ビックカメラ高崎、佐世保市出身)は投打に渡る活躍で日本を連覇に導いた。4位に入ったサッカー男子は吉田麻也(当時サンプドリア、長崎市出身)が主将としてけん引。体操界で「キング」と称された内村航平(当時ジョイカル、諫早市出身)は現役最後の五輪を戦った。長崎県勢は史上最多の11人が出場して、それぞれの夢の実現のために全力を尽くした。
 パリ五輪出場が最も有力視されているのは、五輪連覇を狙う永瀬。東京五輪を制した後の22、23年は世界選手権でいずれも銅メダルに甘んじているものの、81キロ級で国内第一人者の地位は揺るがない。同階級は長崎日大高の後輩に当たる老野祐平(帝京平成大、福岡県出身)も9月に開幕する杭州アジア大会の代表に選ばれており、県勢が五輪切符を争う構図となっている。
 陸上女子長距離の廣中璃梨佳(日本郵政グループ、大村市出身)は20歳だった東京五輪で1万メートル7位、5000メートルで日本記録更新と大車輪の活躍だった。今季も春先のけがから復調しており、五輪イヤーに向けた飛躍が期待される。ライフル射撃男子の39歳、松本崇志(自衛隊、島原市出身)とカヌー男子の35歳、水本圭治(チョープロ、岩手県出身)は2大会連続出場を狙っている。
 東京五輪は県勢11人中、8人が初出場だった。パリに向けても期待の新星が育ってきている。筆頭は3月の東京マラソンで日本歴代5位の好記録となる2時間5分51秒で日本勢トップゴールした25歳の山下一貴(三菱重工、長崎市出身)。先輩の井上大仁(三菱重工、諫早市出身)とともに、10月の代表選考レース(MGC)で有力候補に名を連ねる。
 3x3バスケットボール女子で20歳の江村優有(早大、佐世保市出身)は高い得点力を発揮して、代表の主力として活躍中。惜しくも東京五輪を逃した26歳の永田萌絵(デンソー、佐世保市出身)も再チャレンジを期す。バレーボール男子の大宅真樹(サントリー、佐世保市出身)も代表入りする可能性を残している。このほかの競技にも、虎視眈々(たんたん)と代表を狙っているアスリートは少なくない。
 過去5大会、県勢は2004年アテネに8人、08年北京に7人、12年ロンドンに8人、16年リオデジャネイロに5人、そして21年東京に11人が出場している。100年ぶりに聖火が戻ってくるパリで最高の輝きを見せるのは誰なのか。代表選考や五輪切符を懸けたアジア予選はこれから、本格化する。

◎「私らしい柔道」で恩返し 男子81キロ級で連覇目指す 永瀬貴規【インタビュー】
 -パリ五輪まで1年。
 ここまであっという間だったので、残り1年もあっという間に来るんだろうなと。時間の大切さを実感している。無駄なく、一日のやるべきことに取り組んでいきたい。気が引き締まる思い。

「今まで支えてもらった人のためにパリで連覇したい」と話す永瀬(旭化成)=諫早市、長崎日大高

 
 -自国開催の五輪で金メダル。この上ない目標を達成した。その中でパリ五輪の位置付けは。
 東京が終わったばかりの時はすごく達成感があった。その後、優勝をさまざまな機会に報告する中で、連覇への期待もたくさんいただいて。東京の金メダルは自分自身のためという思いが一番強かった。次は恩返し。今まで支えてもらった人のためにパリで連覇したい。
 
 -東京五輪後は2022年、23年と2度の世界選手権で銅メダル。手応えと課題は。
 ここ最近は思うような結果を出せていないというのが正直なところ。その中で前を向いて次に歩んでいる。今は成果が出なくても、先を見つつ、信じて取り組むことが重要。試行錯誤をしながら、パリを終えた時点でこうしてきて良かったなと思えるように過ごしていきたい。
 
 -リオ五輪で銅メダルだった反省を踏まえ、東京五輪は本番から逆算して周到に準備できたと大会後に振り返っていた。
 時期によって何をしていくかを明確にしていく作業は重要になる。ただ、パリ五輪に向けてはまだ代表の選考段階。厳しい戦いが続いているので、まずは一つ一つの大会をしっかり勝ちにいって、もちろん連覇を考えつつもまずは代表権獲得に努める。

 
 -81キロ級は長崎日大高出身の22歳、老野祐平(帝京平成大4年)もアジア大会代表に選ばれるなど台頭してきた。
 やはり刺激を受けている。後輩にはまだまだ負けられないぞという思いは強い。

 
 -81キロ級は毎年のように世界王者が入れ替わる激戦区。五輪の大一番で結果を出すためには。
 私と同じように五輪の舞台はどの選手にとっても懸ける思いがより強い。人生がかかっているようなハングリー精神のある国や選手も多い。相手の覇気、パワーも他の大会と比べて全然違う。そういった気迫に動揺しないメンタリティーが必要不可欠になる。緊張やプレッシャーを力に変えないと勝てない。平常心を保ちつつ、ある程度の覚醒も必要。
 
 -2度の五輪でメダルを獲得し、現在29歳。肉体的、精神的、技術的にも円熟期を迎えている。
 代表になって長い年月がたった。いい時ばかりではなく、けがなど苦しい時期もあって、そうした経験値があることが一番の強みだと実感している。年によってルールが変わっても、どんな相手が来ても対応できるように考えてやっている。(ライバルは怪力の選手がそろうが)あの柔道スタイルを目指そうとは思っていない。私は私らしい柔道で、そこはぶれずに戦っていく。

 【略歴】ながせ・たかのり 長大付小1年時に養心会で柔道を始め、長大付中を経て長崎日大高で春夏2度の日本一に輝いた。筑波大2年でユニバーシアードを制し、4年で世界選手権優勝。社会人1年目の2016年リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得した。17年秋に負った右膝の大けがを乗り越え、23年東京五輪の81キロ級で金メダルを勝ち取った。181センチ。

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