社説:戦没者慰霊碑 老朽化対策を地域ぐるみで

 戦後78年となり、全国各地で戦没者慰霊碑の維持管理が難しくなっている。補修や清掃を担ってきた遺族らの高齢化が進み、引き継ぎ手が見つからないためだ。

 人知れず放置され、劣化の進んでいる碑もある。地震や台風で倒壊する恐れも指摘されている。

 歴史を語り継ぐ上で、こうした戦争モニュメントをどう扱っていくかは避けて通れない問題である。それぞれに合った管理と追悼の在り方を考える時に来ている。

 国内には、明治―昭和期に在郷軍人や住民有志らが建立し、地元の戦没者の名などを刻んだ碑が数多くある。寺社や墓地のほか、公園、小学校にも立つ。

 厚生労働省の2019年のまとめによると、民間主体で建てられた碑は全国に1万6235基。うち、ひび割れがあるなど管理不良とされたのは780基(京都府8、滋賀県0)、管理状況不明は1495基(京都府12、滋賀県1)だ。

 国は16年度から、民間に代わって碑の安全対策を講じる自治体に対し、費用の半分(上限25万円、19年度からは同50万円)を補助している。ただ、建立者が不明だったり、倒壊の恐れがあったりするケースに限られ、補助金を使って移設・撤去された碑は全国19件にとどまる。

 多くの碑の管理に関わる遺族らの全国組織、日本遺族会によると、1967年に125万世帯だった会員数は2019年には57万世帯に半減した。

 移管、補修が進まない背景には、こうした担い手の減少や記憶の薄れに加え、住民の間に多様な歴史観や宗教観があり、継承について踏み込んだ議論がしにくいという事情もある。

 さまざまな価値観を前提にして、互いの意見を率直に出し合い、学び合い、次の世代へ何を伝えるのかを地域ぐるみで話し合うことが、むしろ必要なのではないだろうか。

 2年前、米原市は市民や遺族の代表らでつくる審議会に、戦没者の今後の追悼や顕彰の在り方を諮問した。その答申に沿い、経年劣化した碑を整理して戦没者の名を1カ所の刻銘板にまとめる方針を示した。

 計5回の会合では故人の名を後世に伝える意義や、碑の今日的な価値など6人の委員から幅広い意見が出たという。市民参加による議論の参考にしたい。

 これまで行政は「民間建立碑のことは民間で」と距離を置きがちだったが、国家が進めた戦争に起因する事柄である。政府や自治体は、より主体的に役割を担うべきだ。

 管理の担い手に社会教育団体などを加えて碑を歴史学習に生かしたり、資金調達にクラウドファンディングなどの寄付環境を整えたりといったことも考えられよう。政教分離の原則を踏まえつつ、行政ができることは少なくない。

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