「仲間と家族に感動を」「インハイの弾みに」いざ12kmの海へ 静岡商4人が挑む初島・熱海間団体競泳【後編】

8月4日に開催される「初島・熱海間団体競泳大会」。相模灘沖の初島(静岡県熱海市)から熱海サンビーチまでの12kmを3人1組で泳ぐ伝統の団体戦です。2012年から出場を続ける静岡県立静岡商業高校水泳部の選手たちに意気込みを聞くシリーズの2回目。3年生4人のうち、今回はただ1人の男子、赤堀冴壱我選手とマネージャーの朝比奈碧さんに意気込みを聞きました。

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■「遠泳は楽しんだもの勝ち。チームワークの見せどころ」

「遠泳は不安よりも楽しみの方が大きいです」。水泳部の3年生で唯一の男子、赤堀冴壱我選手(静岡市出身)の笑顔が弾けました。こう話せるのは、遠泳が日ごろの「飽くなきベストタイムの追求」とは違って、同級生と力を合わせて取り組める“イベント”でもあるからです。「いつもは笑顔なんてなかなかつくれないけれど、これはもう楽しんだもの勝ち。ぶっ通しで2時間以上泳ぎ続けるってなかなかないですよね。最高の思い出じゃないですか。今回4人そろって北海道のインターハイに行けますけど、遠泳は3年間の中で一番4人のチームワークが試されるのもありますよね。僕たちはたくさんけんかもしたけれど仲はいいですし、今までの同期で一番仲がいいと思っています。だから初めての海ですけど大丈夫です」

同級生の女子3人に対して男子は1人。「女子の主張にうまく合わせ、時にはかわしながら(笑)」チームを盛り立ててきたという赤堀選手。高校総体の県大会まで、出場した平泳ぎでインターハイの基準となる「標準記録」のタイムを切れず、7月の東海大会で200mの全国出場を決めました。「12 km泳ぎ切れたら何でもできる気がしますし、遠泳の2週間後の全国大会の自信につなげたいです」と目を輝かせます。

その赤堀選手が遠泳を通して一番伝えたいのは家族や仲間への感謝です。「やっぱり感動を与えたいですね。僕、親がインターハイは見に来られないのですが、ここまで続けてこられたのは親がいてくれたからこそ。遠泳は来てくれるので“泣かせたい”ですね。4人で泳ぎ切ったっていうのを見てもらいたいですし、泳ぎで感謝も伝えたいです」。泳者3人をサポートする船には、水泳部OGで姉の沙耶伽さん(20)も乗り込みます。新型コロナのため大会が中止になり遠泳出場がかなわなかった姉の分も「絶対頑張る!」と力泳を誓います。

■泳ぐ3人を「しっかり支えたい」それが役割

「去年の先輩に聞いたら、励ましの声掛けはもちろん、泳ぐペースを整えるために船の上でずっと笛を吹き続けなければいけないとか、休憩の時も栄養補給のゼリーや飲み物を船から渡すとか、やることがたくさんあるので気を抜けないですね」。マネージャーの朝比奈碧さん(静岡市出身)は遠泳の日、選手をサポートするために小型船に乗り込みます。「船酔いしないように酔い止めも買いました」と着々と支度に取り掛かっています。

この朝比奈さん、水泳の経験は小学生時代の約3年。中学時代は吹奏楽部でした。高校で水泳部のマネージャーになったのは水泳部副顧問の知念知実先生に勧誘されたのがきっかけでした。「見学に行きみんなが泳いでいる姿を見て『かっこいい!』と。それで入部しました。でも私は水泳の知識はほぼゼロで、仕事もできなくて…。一番難しかったのは、みんなが苦しそうという時。応援したいけれど『頑張れ!』でいいのか、そう言ったら選手はもっと苦しくなっちゃうのか。その心の変化が分からなくてただ応援するだけじゃダメなんだなって。毎日学ぶことばかりでした。同級生の仲間が『一緒に頑張ろう。インハイに行こう』と言ってくれて、それがあって今までやってこられました」

3年生になった2023年、朝比奈さんが支え続けてきた同級生の選手3人は8月のインターハイ出場を決めました。もちろん朝比奈さんも会場の北海道に行きます。その前に行われる12kmの遠泳をインターハイへの弾みにできるようにするのが朝比奈さんの役割です。「12kmですからみんな苦しいと思います。だからこそバラバラにならないように、ちゃんと3人でゴールできるように『あとちょっとだよ』とか声掛けをしっかりしていきたいです。ずっと支えられてきたので本当にしっかりと。インハイは3年全員で行けるというのもあるし、遠泳をきっかけにチームワークがもっと高まるんじゃないかと思います」

■未知の12km…いかに泳ぐか?

12kmの海を泳ぐルールとして、泳者3人が10m以内で集団で泳ぐという項目があります。また、天候のほか、波や潮の流れなどさまざまな変化に対応していくこともポイントとなります。静商の過去最高順位は2012年の2位、最高タイムは2013年の2時間10分42秒です。

高橋未季歩選手、芝原帆香選手、赤堀冴壱我選手の3人にとって、海を泳ぐのも、12kmを泳ぎ続けるのも初めてです。「いい順位を狙いたい」(高橋選手)、「去年の先輩は抜かしたい。順位も時間も上回れるように(2022年は5位、2時間30分06秒)」(芝原さん)、「目標は2時間10分。でも僕は雨男なので(笑)」(赤堀選手)、「心に残る思い出に」(朝比奈さん)とそれぞれ目標を掲げます。4人が共通して胸に抱いていることは「高校部活動の集大成として、自分たちの絆の強さとチームワークの良さを見せること」です。未知なる海を泳ぎ切った向こうに何が待っているでしょうか。4人は気持ちを1つにして8月4日(金)正午、初島をスタートし、12km先にある熱海サンビーチの完泳門を目指します。■

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