アメリカツアーよりアジアツアーの方が嬉しい…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©︎RFEF]

「これは男子より悲惨かも」そんな風に私が茫然としていたのは月曜日、午前中にあった女子W杯グループリーグ最終節でスペインが日本にgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らって負けるのを見た時のことでした。いやあ、昨年11月の男子W杯でもスペインは3試合目で日本に2-1と敗れ、グループ2位通過となったんですけどね。すでに2節ではドイツと1-1で引分け、7-0と大勝したコスタリカ戦の余韻も薄れていたため、それでも決勝トーナメントに行けてラッキーぐらいの気持ちでいたんですが、スペイン女子の場合、コスタリカに3-0、ザンビアには5-0とここまで無失点で2連勝していましたからね。

その分、世間の期待も高まっていたんですが、まさかボールを77%まで持ちながら、日本のカウンターがことごとく大当たり。前半12分の宮澤ひなた(マイナビ仙台)選手を皮切りに、29分には植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)選手、40分には宮澤選手に自身2本目を決められ、ハーフタイムまでに3点も差をつけられてしまうとは!後半37分にも田中美南(INAC神戸レオネッサ)選手に止めの4点目を挙げられ、4-0の大敗なんてもう、開いた口が塞がらないとはまさにこのこと?いえ、10本シュートを撃ちながら、枠内には2本しか飛ばなかったスペインより、7本中5本が枠内で、うち4本がゴールになった日本の効率の良さは素直に賞賛に値しますけどね。

先日はどこぞのチームが28本もシュートしながら、1点も取れずに宿敵に完敗した試合を見たばかりだったのもあって、撃っても撃っても入らない日はあるというのはわかりますが、これでスペインは土曜にスイスと対戦することに。日本は同日にノルウェイ戦となったんですが、どちらの方が良かったかは微妙なところ。何はともあれ、この敗戦を教訓にスペインの女子選手たちもしっかり反省して、16強対決でモロッコにPK戦で敗退し、あっさり姿を消したルイス・エンリケ監督(現PSG)のチーム以上の成績を残すことを目指してもらいたいものです。

一方、最近はプレシーズンマッチに明け暮れているマドリッドの男子クラブは先週末も結構、忙しくしていて、土曜など、私が朝起きてみれば、レアル・マドリーTVがRMカスティージャと2部の弟分レガネスの親善試合を絶賛放映中。バルデベバス(バラハス空港の近く)のグラウンドでは、前半6分にウンダバレラがエリア前から決めたゴールで先制したボルハ・ヒメネス監督のチームだったんですが、後半開始すぐにアパリシオに同点にされ、ロスタイムにはカルバハルの独走を許して決勝点を奪われていたのは、ラウール監督のチームが昨季2部昇格に失敗したRFEF1部(実質3部)であることを考えると、ちょっと心配かも。(最終結果2-1)

そんなレガネスにはアトレティコの世界一周ツアーに参加中だったアトレティコB(今季からRFEF1部)のエース、カルロス・マルティンが月曜に韓国を発ち、メキシコに向かった本隊と別れ、1人帰国。レガネスにレンタルで加入するという報が流れてきたんですが、ここは先に土曜の残りの試合の話をしてしまうことにすると。その日の夕方には1部の弟分ラージョがド・ドラゴンでポルトと親善試合を行ったんですが、キックオフ前にはアトレティコに来る前、ポルトでプレーしていたファルカオが地元ファンの歓迎を受けるイベントも。試合の方は相手がCL出場の常連という格上であるにも関わらず、前半を0-0で終えることができたんですが、後半12分にはイシが敵選手をエリア内で倒し、PKを献上するピンチに見舞われてしまったから、さあ大変!

でも大丈夫。この時はGKディミトリエフスキがタレミのPKを弾いてくれたため、35分にサルビのクロスからアルバロ・ガルシアが決めたvolea(ボレア/ボレーシュート)でラージョはリードすることができたんですが、え?この夏のプレシーズンマッチ、フランシスコ新監督のチームでゴールを挙げているのは彼だけじゃないかって?まあ、その通りで、パナシナイコスに0-1で勝った初戦、1-1で引き分けた先週のシャルルリワ戦と、これで3試合連続得点としたんですが、他のFWたち、RdT(ラウール・デ・トマス)やファルカオ、エヌテカらが不発でねえ。おかげでこの日も後半ロスタイムにナモソのヘッドを浴びて、1-1と引分けることになったんですが、バケーションを兼ねて応援に行った、決して少なくない数のラージョファンにはちょっと残念な結果だったかと。

ちなみに今週のラージョは水曜にバジャドリーとホセ・ソリージャで親善試合なんですが、こちらはバジャドリーのYouTubeチャンネルで見られることを期待。ただキックオフが午後8時30分(日本時間翌午前3時30分)と同日、午後7時45分(日本時間2時45分)から、プエルトジャノ(マドリッドから電車で2時間の内陸都市)で最短1部Uターン組のグラナダとプレーするもう1つの弟分、こちらはいつもYouTubeで中継してくれるヘタフェの試合と重なってしまうのが難点ですが、またスマホとパソコンを並べて、同時観戦することになりましょうか。

そして嬉しいことにその土曜には午後11時からのクラシコ(伝統の一戦)を店内のTVで流してくれるバル(スペインの喫茶店兼バー)を発見したため、私も遅い時間にいそいそと出かけたんですが、ちょっとビックリしたのが、マドリーの中盤がチュアメニ、カマビンガ、バルベルデ、そしてひし形の頂点にベリンガムという布陣で、近年のスタンダード、モドリッチもクロースもベンチスタートだったこと。これは後でアンチェロッティ監督も「hoy quería ver a los jóvenes en un partido de máxima intensidad/オイ・ケリア・ベル・ア・ロス・ホベネス・エン・ウン・パルティードー・デ・マキシマ・インテンシダッド(今日は最高に激しい試合での若い選手たちを見たかった)」と言っていたんですが、どうやらチームの代替わり計画が着々と進んでいるような。

ただ、前半15分にバルサに先手を取られたのはそのせいと言うより、チャビ監督が入念に準備したセットプレーの賜物で、エリア右横からギュンドガン(マンチェスター・シティとの契約終了)がエリア外正面に送ったFKをペドリが繋ぎ、デンベレへスルーパス。そのシュートが見事にGKクルトワを破って、ゴールとなったんですが、うーん、アメリカツアーに出てからのセッションをレアル・マドリーTVで見ていると、時々、セットプレーの練習もしているんですけどね。まだ攻撃中心で守備まで手が回っていないのかもしれませんが、その3分後、早くもマドリーは同点のチャンスを迎えたんです!

そう、バルベルデのクロスをベリンガムはクリステンセンに倒されてヘッドできなかったんですが、逸れたボールがアラウホの手に当たり、PKをゲットしたからですが、いやあ、ベンゼマがアル・イティハドに行ってしまって以来、今のマドリーには不動のPK第1キッカーがいませんからね。それをチャンスとばかりに最近、PKの居残り特訓をしていたビニシウスが蹴ったところ、ボールは無情にもゴールバーに弾かれてしまうんですから、ツイていない。おかげでその後、ラジオ・マルカ(スポーツ専門ラジオ局)の実況や解説だけでなく、夜のサッカー番組でも「ビニシウスがマドリーでPKを蹴るのはあれが最後になるか」という議論に花咲くことになったんですが、ピッチでは前半残り、バルサはクリステンセンがアキレス腱を痛め、エリック・ガルシアに、ギュンドガンも右太もものケガでセルジ・ロベルトに交代。マドリーもハーフタイム入り直前にメンディが太ももを痛めて急遽、フラン・ガルシア(ラージョから移籍)が出動するという、プレシーズンあるあるの負傷者発生に見舞われることに。

それと平行して、40分にクルトワがデンベレとの1対1をparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いだ後、カウンターを止めようとしたデ・ヨングがカルバハルに強烈なタックルをかまして、tangana(タンガナ/小競り合い)が始まるなど、夏の興行試合ながら、両チームのライバル意識の強さをダラスのAT&Tスタジアムに駆けつけた8万人以上の観衆に披露していたりしたんですが、実はこの日、マドリーの一番の敵はゴール枠だったんですよ。そう、ビニシウスのPKはともかく、前半はベリンガムがヘッドをバーに弾かれていて、後半、remontada(レモンターダ/逆転劇)の達人、モドリッチとクロースがヘルプに入った後もチュアメニの豪快なエリア外からの一発がバーを直撃。

要はこの試合を通じて、29本シュートを撃ちながら、枠内はたった5本、枠に嫌われた回数も都合5回ともなると、後でアンチェロッティ監督が「Cinco palos, nunca me ha pasado. Mejor en pretemporada/シンコ・パロス、ヌンカ・メ・ア・パサードー。メホール・エン・プレテンポラーダ(ゴールポスト5回なんて、経験したことがない。プレシーズンで良かったよ)」と呆れていたのも理解できるかと。でもねえ、いくら逆転目指して前掛かりになったとはいえ、後半40分、クルトワのゴールキックをクロースがアンス・ファティに奪われ、交代出場していた20才のカンテラーノ(ユースチームの選手)、フェルミンがエリア前から、「le he pegado con el alma/レ・エ・ペガードー・コン・エル・アルマ(全霊を込めて蹴った)」シュートを決められているって、ちょっと問題じゃない?

その上、バルサはロスタイムにもフェルミンのラストパスを取ろうと出て来たクルトワに先んじてフェラン・トーレスがボールを奪い、3点目まで挙げているんですから、夜中の1時まで、閉店したくてたまらないウェイターさんたちに遠慮しながら見ていた私も後味が悪かったの何のって(最終結果3-0)。うーん、この日もマドリーはCFなしでスタートして、後からホセル(エスパニョールからレンタル)が入り、4-3-1-2から、昨季までの4-3-3に回帰。そのホセルも絶好機にヘッドを外していましたし、これはまた、エムバペ(PSG)を筆頭にベンゼマの後継となる一流FW獲得の必要性をマスコミが焚きつけるいいキッカケになりそうでうね。

そんなマドリーは翌日曜、月曜とエアコン付きのAT&Tスタジアムで練習した後、土曜にヒザの半月板のケガが発覚し、マドリッドに送還されたギュレルを除いて、ツアー最後の滞在地オーランドに移動。木曜午前1時30分(日本時間午前8時30分)からユベントス戦をプレーするんですが、その一方で日曜開催となったソウルでの第2戦、マンチェスター・シティ戦に挑んだアトレティコはどうだったかというと。いやあ、こちらは午後1時にキックオフだったため、私も見るのに問題はなかったんですが、何故か、時間になっても一向にTV中継が始まらず。ウィエターさんと首を捻っていたところ、実は直前に集中豪雨に襲われたため、キックオフが45分遅れていたというオチに。とりあえず、無事開催となっての前半25分にはフォーデンのCKをロドリがヘッドでゴールに叩き込み、古巣恩返し弾を決められたかと思えば、ラポールのGKオブラクへのファールで認められなかったというのはツイていましたっけ。

まあ、大体がして、2年前の最後の対決、CL準々決勝も総合スコア1-0の渋い展開だったため、前半が0-0で終わったのも当然というか、怖いハーランドを新加入のソユンチュ(レスターシティと契約終了)とアスピリクエタ(チェルシーと契約解除)が抑えてくれて、ホッとしていたんですが、後半はようやく首椎間板ヘルニアが治り、4月以来の出場となったオブラクがゲルビッチに、エデルソンがオルテガにと両チーム共、GKだけが交代してスタート。ただ実際、スコアが動いたのはグァルディオラ監督が8人の大量交代、負けず劣らず、シメオネ監督も9人の交代(ジョアン・フェリックスは筋肉痛で見学)を行った後で、いえ、ソユンチュだけはサビッチが当日、胃腸炎でお休みしたため、フル出場しないといけなかったんですけどね。

20分にはシュートを敵GKに弾かれたバリオスが挫けることなく、戻って来たボールをメンフィス・デパイにパス。彼がコレアとのワンツーを経て、エリア前から、golazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決めてくれたから、ビックリしたの何のって。いやホント、バルサから1月に来たこの選手、ケガが多くて、昨季も終盤はずっとお休み。プレシーズンも最初は別枠調整で、この試合が最初の出場だったんですが、出れば、かなり高い確率でゴールを挙げてくれるんですよね。おまけに28分にも、今度はロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)での地獄のキャンプ後半から、ずっと筋肉痛で個人メニューを続けていたカラスコがドリブルで敵をかわし、やはりエリア前から、2点目のゴールをサラッと挙げてくれているとなれば、もうアトレティコはシティ戦で5-5-0を使う必要はない?

残念ながら、39分にはセルヒオ・ゴメスのCKをルーベン・ディアスにヘッドで決められて、1点を返されてしまったんですが、それでも1-2で勝てましたからね。もちろんシメオネ監督も「Esto son amistosos, no sirven para mucho/エストス・ソン・アミストーソス、ノー・シルベン・パラ・ムーチョ(これらは親善試合だから、大きな役には立たない)が、チーム編成をしていけるという価値がある」とあっさりしていましたが、でもでも相手は昨季CL、プレミアリーグ、FAカップ三冠のチャンピオン様ですよお。初戦のKリーグ選抜チームとの対戦に3-2で逆転負けを喰らった選手たちには自信回復になって良かったかと。

まあ、キックオフの遅れでその日のうちにイギリスに戻る飛行機の時間が迫り、シティが記者会見をパスしたため、グァルディオラ監督が今季のシメオネ監督のチームをどう思ったのかは聞けませんでしたけどね。そして翌月曜に長いフライト経て、モンテレイに着いたアトレティコは木曜午前3時(日本時間午前10時)から、レアル・ソシエダ戦に挑むことになりますが、ホント、これってまったく、スペインにいるファンのことを考えていない時間帯。お隣さんと違い、自前のTV局など持っていない彼らの試合は再放送も見られないんですが、何はともあれ、あと2週間と迫ったリーガ開幕に向けて、ケガ人を出さずにしっかり準備をしてくれることを願っています。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

© 株式会社シーソーゲーム