【ベトナム】国営ゴム、調達網透明化進む[農水] 日系支援、高級子供靴も採用

収穫した天然ゴムを加工・出荷するVRGの工場=ベトナム南部ホーチミン市郊外(加藤事務所提供)

世界第3位の天然ゴム生産国であるベトナムで、サプライチェーン(供給網)を透明化する取り組みが進んできた。国営の業界最大手ベトナム・ゴムグループ(VRG)と日本の専門商社が設立した合弁会社では、「サステナビリティー(持続可能性)」のあるゴム産業の構築を目指して国際規格の認証取得などを進めており、日系の大手子供服ブランドが高級ベビーシューズの靴底に採用するなどの成果が出始めている。【齋藤眞美】

ドイツの調査会社スタティスタによると、ベトナムのゴム生産量は年約100万トンで、2022年の生産量が1,460万トンだった世界全体ではタイ、インドネシアに次ぐ3位だ。

VRGは、外資との提携で輸出先の多角化を狙うベトナム政府の方針に沿って、15年にゴム原材料商社の加藤事務所(東京都中央区)、JTC(大阪市)と合弁でVRGジャパン・ラバー・エクスポート(VRGジャパン)を設立した。

そこで取り組みを強化したのがサプライチェーンの透明化によるサステナビリティーの確保だ。

世界の天然ゴム生産は95%余りが小規模農園で占められ、販売業者との間に仲介業者が複雑に入り組んでいる。このため、トレーサビリティー(生産履歴の追跡)が難しく、生産段階で森林破壊や環境汚染、強制労働があっても、分かりづらい構造にある。

加藤事務所の加藤進一代表によると、国営企業であるVRGは自社農園から天然ゴムを調達するため、「ほぼ100%トレーサビリティーが確保できる」という。VRGの生産量は年間35万トン程度で、ベトナム全体の約4割を占める。

雇用する約13万人には、固定給が支払われているのも同社の強みだ。他国の主要産地では欧米の植民地時代から続く習慣で、労働者の報酬がゴム相場の変動に伴い上下する。VRGでは労働者が相場に左右されずに生活できるため、加藤氏は「サステナブルな雇用にもつながっている」と話す。早朝に幹からしみ出す樹液の採取を主な仕事とする末端の労働者の月収は、現在300~350米ドル(約4万2,000~4万9,000円)程度だ。

VRGは20年にホーチミン証券取引所(HOSE)に上場したのを機に、ESG(環境・社会・企業統治)担当役員も置き、22年からは、国内に40カ所ある天然ゴム加工工場のうち2工場で、ロット番号とバーコードを付けた製品の出荷を開始した。バーコードを読み取ることで、原料が採取された農園と加工工場が日付とともに分かる仕組みだ。天然ゴム事業のほか、農園跡地の不動産開発、ゴムの木の廃材を活用した合板事業にも多角化している。

生産された農園などが分かるバーコードがこん包用のビニール袋に印刷される(加藤事務所提供)

■政府は独自認証制度

ゴムを含めた農林産物の輸出を拡大するため、ベトナム政府も独自の国家森林認証制度「ベトナム・フォレスト・サーティフィケーション・スキーム(VFCS)」を創設し、業界の背中を押している。VFCSは20年に、欧州の国が中心となって立ち上げたサステナビリティー推進のための国際規格「プログラム・フォー・エンドースメント・オブ・フォレスト・サーティフィケーション(PEFC)」に承認された。PEFCの基準を満たすベトナム国内の森林面積は今年7月時点で1万5,000ヘクタール(国全体の約2%)で、ほとんどがVRGの天然ゴム農園だという。

■品質に加えた対応が急務

こうした取り組みに着眼しているのが、「ミキハウス」ブランドの子供服を製造・販売する三起商行(大阪府八尾市)だ。

同社は数年前から、ペットボトルをリサイクルしたポリエステル素材を衣料品に活用するなど、サステナビリティーへの対応を強化。子供用シューズの靴底材料の一部として、VRGから天然ゴムの供給を受ける契約を結んでいる。

VRGを取引先とするのは、履きやすさにつながる屈曲性などの品質はもちろんだが、「原材料の生産過程においても環境や人権を重視した取り組みをしないと、持続可能性があるものづくりにはならない」(三起商行の平野芳紀執行役員・経営企画本部ESG推進部長)と考えるためだ。ビジネス上のリスクを避け、市場に評価される取り組みを強める。

(左)工場を視察する三起商行の担当責任者ら=今年1月、ホーチミン郊外(同社提供)/(右)ベトナム産天然ゴムなどが素材に使われる子供用の靴=大阪府八尾市(NNA撮影)

三起商行は今年1月、購買の責任者が南部ホーチミン市の郊外にあるVRGのゴム農園を実際に訪れ、バーコードを付けて製品を出荷する工場の作業状況などを視察した。今後、トレーサビリティーが確保しづらい他地域からの調達を、ベトナム産で補う検討を進めていくという。

VRGジャパンは三起商行のほか、日本の一部タイヤメーカーにも毎月定期的な納入を続けている。

■欧州での監視の目厳しく

国際社会では、ビジネスを進める上で「サステナビリティー」が一層重視されるようになっており、パーム油やカカオ豆を使ったせっけんやチョコレートなどの製品は、既に消費者の厳しい目にさらされている。欧州では人権侵害や環境破壊に抵触する懸念のあるブランドが店頭から撤去されるケースもある。

欧州議会は今年4月、森林破壊に関係した農林産品の欧州連合(EU)域内への輸入を禁止する森林破壊防止法を承認。パーム油やカカオ豆などとともに、天然ゴムも対象産品に含まれた。

世界の天然ゴムの7~8割を使用するタイヤ業界は18年、「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR)」を組織し、サステナビリティーの確保に向け協議を開始。タイ、インドネシアでは、日系を含む大手タイヤメーカーが、農家への戸別訪問や国際的な環境団体と連携した追跡調査を始めている。

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