2022年度の商号変更 1万9,217社 新商号はカタカナが増え、「工業」「日本」などが減少

~ 2022年度 商号変更動向調査 ~

2022年度(2022年4月~2023年3月)に商号変更を行った企業は1万9,217社で、TSR企業データベースに登録された約385万社の0.4%だった。
商号変更はイメージ刷新のリブランディング手法の一つで、代表者が交代した企業では商号変更率が2.5%と全体の0.4%と比べ高いことがわかった。

商号変更で採用が増えたワードは、1位「ホールディングス」(107社増)、2位「グループ」(59社増)だった。M&Aや経営統合増加の時流が背景にあるとみられる。カタカナやアルファベットが増えた一方で、漢字の使用は減少している。減少ワードでは、1位「工業」(272社減)、2位が「歯科」(189社減)など。また、「日本」「ジャパン」「japan」も減少した。事業の多角化やグローバル化を進める企業では、一部の事業領域・エリアをフォーカスした印象を刷新する動きがあるとみられる。

産業別では、有形資産が少ない「金融・保険業」「情報通信業」などで、商号変更率が高かった。従業員別では、従業員数が多いほど商号変更率が高く、事業拡大のなかでホールディングスやグループ化の検討、事業の多角化により商号を変更するケースが多いとみられる。

商号変更は、企業の新たな戦略やビジョンを訴える手段として有効だ。アフターコロナの時代では、働き方や経済情勢の変化で消費者行動が変わり、企業の描く戦略も大きな変革を求められている。そうしたことを背景に、今後も商号変更に踏み切る企業が増加する可能性がある。

※本調査は、TSR企業データベースから2022年度(2022年4月~2023年3月)に商号変更が判明した企業を抽出し、分析した。今回が初の調査となる。

<新商号で出現回数の多い単語>


2022年度の商号変更 1万9,217社

2022年度(2022年4月~2023年3月)に商号変更が判明した企業は1万9,217社で、企業総数の0.4%だった。
地区別では、最多が関東の9,073社(構成比47.2%)で、全体の約半数を占めた。次いで、近畿が2,982社(同15.5%)、九州が1,977社(同10.2%)、中部が1,973社(同10.2%)と続き、4地区が4桁台となった。

代表者が交代した企業ほど商号変更率がアップ

商号変更した1万9,217社のうち、代表者が交代した企業は1,966社、代表者が交代しなかった企業は1万7,251社だった。
代表者を交代した企業全体のうち、商号変更した企業数の比率(以下、商号変更率)は2.5%で、全体の0.4%より2.1ポイント高かった。代表者交代を契機に、新たな経営方針を打ち出し、リブランディングをアピールする目的で商号を変更する企業も多いようだ。
代表者が代わり商号を変更した企業のうち、代表者の性別変更状況をみると「男性→女性」が152社、「女性→男性」が151社と拮抗した。
ただ、商号変更率は「男性→女性」が2.3%、「女性→男性」が2.7%で、代表者が女性から男性に代わった企業で商号の変更率は高かった。

【ワードカウント】増加数は「ホールディングス」が最多、減少数は「工業」が最多

商号変更した1万9,217社の新・旧商号をそれぞれ分割し、2文字以上の単語の採用社数をカウントした。新・旧商号で各10社以上採用された単語について、ワード数の増減数を算出した。
最も増加した単語は、1位が「ホールディングス」の107社増(193→300社)、2位「グループ」が59社増で続く。事業拡大、経営の多角化、事業承継などでM&Aや経営統合を行うケースが増え、持株会社制への移行やグループ化に取り組む企業が増えたとみられる。3位は「テック」の45社増で、情報通信や製造業で多かった。4位は「スポーツ」の36社増で、「体育協会」が「スポーツ協会」へ商号変更するケースが各地で見られた。
増加ランキングでは、カタカナやアルファベットの単語が上位に多くランクインした。

減少した単語は、1位が「工業」で、272社減(442→170社)と大幅に減少した。漢字の硬いイメージの商号から、ひらがなやカタカナ、アルファベットを使用した商号へ変更するケースが多くみられた。
東証スタンダードの「ツインバード(株)」(旧:ツインバード工業(株))のように、「工業」を削除するのみのケースも散見された。同社は社名とブランド名の一致で、リブランディングを加速することを理由とした。

2位は「歯科」(189社減)、3位は「クリニック」と「医院」(各152社減)で、医療関連が並ぶ。近年、個人経営の歯科・医院などが節税や事業継承などを理由に法人化を進めており、医療法人〇〇会などといった商号への変更が増加した。
6位の「日本」は、新商号で225社が使用しているが、旧商号と比べると採用社数は89社減少した。上場企業では、(株)ニッスイ(旧商号:日本水産(株))、NSW(株)(旧商号:日本システムウエア(株))、(株)JPMC(旧商号:日本管理センター(株))などがあり、事業の多角化、グローバル化、リブランディングなどを理由とした。グローバル展開の強化で、日本国内のみに焦点を当てた事業と誤解されないための変更や、「日本〇〇」とパターン化した商号から、他社にない商号への変更でイメージ刷新を狙うケースも考えられる。

【産業別】サービス業他が4割

産業別では、最も多かったのはサービス業他で7,957社(構成比41.0%)だった。個人企業の多い経営コンサルタント、医院・クリニックや飲食業などが含まれる。
次いで、建設業が2,256社(同11.7%)、小売業が1,778社(同9.2%)で続く。
各産業の企業総数に対する商号変更率では、金融・保険業が0.8%と最も高く、次いで情報通信業が0.7%、運輸業が0.6%だった。
建設業の商号変更率は0.3%で、企業数は2番目に多いが、変更率は10産業で最も低かった。

商号変更した企業は、企業総数が多い産業ほど多くなる。一方で、機械や工場などの有形設備が多いほど、商号やロゴの変更手続きに時間を要し、またコストも膨らみやすい。こうしたことから、商号変更率は有形設備の少ない産業ほど高くなる傾向が見られた。

【従業員別】従業員数が多いほど変更率が高い

従業員数別では、5人未満が1万5,097社(構成比78.5%)と圧倒的に多く、全体の約8割を占めた。次いで、5人以上10人未満が1,399社(同7.2%)、10人以上20人未満が962社と続く。
従業員数が少ないほど企業総数が多く、これに比例して商号を変更する企業数も多い。
ただ、商号変更率は300人以上が1.5%と最も高く、次いで50人以上300人未満が0.8%と続き、従業員数が多いほど高くなっている。

一般的に企業規模が大きいほど、商号変更にかかる時間・コストは膨らむ。しかし、事業の拡大が進むなかで、持株会社制への移行やグループ化、事業の多角化などでのイメージ刷新・リブランディングを検討する機会が増加する。こうした理由により、従業員数が多いほど商号変更率が高いとみられる。

【資本金別】資本金が高いほど変更率が高い

資本金別では、1百万円以上5百万円未満が6,574社(構成比34.2%)で最多だった。次いで、1千万円以上5千万円未満が3,354社(同17.4%)、5百万円以上1千万円未満が3,030社(同15.7%)と続く。
商号変更率は、従業員数別と同様に企業規模が大きいほど高い傾向にあり、最高の1億円以上が1.5%、次いで5千万円以上1億円未満が0.8%と続く。個人企業他は0.3%と、商号変更率は最も低かった。

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