菊池陽報(This is LAST)×和田 唱(TRICERATOPS)/『DREAM MATCH 2023』フロントマン対談【前編】- 世代を飛び越え、"夢"のある"戦い"が新宿LOFTで繰り広げられる一夜

今回の対バン、母がメッチャ興奮してます(菊池)

──TRICERATOPSが新宿ロフトに立つのは、同じく『DREAM MATCH』の2015年、KEYTALKとの対バン以来だそうです。

和田唱(TRICERATOPS):体感的に4年ぶりぐらいだと思ってましたけど、40代になると経過のスピードが全然違いますね(笑)。菊池くんは何年生まれ?

菊池陽報(This is LAST):1995年です。

和田:ちょうど僕が林(幸治/ベース)と会った年か、それでデビューが97年。本当にね、あっという間にこうなっちゃうからね(笑)。

菊池:母がトライセラを聴かせてたらしくて、僕が5歳の頃にトライセラの「if」(99年)をずーっと歌ってたらしいんです。今回、母が“マジで!?”ってメッチャ興奮してて、「見に行きたい!」って言われました(笑)。

和田:あらららら〜、どうぞよろしくお伝えください(笑)。

菊池:ご一緒するお話をいただいたときに“レジェンドだ”って思いましたし。僕はもともとはハードコアの出身で、(バンドの)ヌンチャクと並ぶ感じです。

和田:こうして誘っていただけたのはとても嬉しかったですけど、レジェンド感なんて微塵もないなぁ(笑)。自分は今年48歳になるから…菊池くんは、僕とちょうど20歳違うのか。この年の差は僕で言うとどなたぐらいに当たるんだろう?

──Charさんがちょうど和田さんより20歳上ですね。

和田:僕が菊池くんぐらいのときのCharさん…それはかなりレジェンドですね。

菊池:今、それが起きているということですよ。これで分かっていただけたら。(一同笑)

和田:僕らが20代のときなんて全然でしたけど、菊池くんはしっかりされてますよ。

菊池:バンドの精神というものを千葉県の柏でキッチリ、上は上・縦は縦、と柏で鍛えられました。

和田:でも最初ってハードコア・バンドだったんだよね? それが失恋によって変わったんだっけ?

菊池:いや、失恋ではなくて、彼女に浮気されまして。本当に苦しい思いをしまして、それを曲にしたことがきっかけで、今の形になりました。

和田:分かる分かる。俺もね、すごいヤキモチ焼きだったの。前の彼氏とのこともスゲー嫉妬したりしてたほうだったから。

菊池:メッチャ分かります、ボーカル録りの日に“元彼から連絡が来た”とか言われて地獄のレコーディングだったこともありました。歌って精神が大事なのに、ブレブレのままマイクの前に立って(笑)。でもそれはそれで何か、エモーショナルな音源が録れたんですよね。

和田:その経験の全部が良いんだよ、ブルースが宿るからね。僕の初期の頃の曲も大体、彼女とうまくいかなかったことがモチベーションになってるから。それとあれだね、菊池くんは声がすごく、パーンと出る人だね。

菊池:そこはかなり鍛えてきました。

和田:ハードコアで、ワー! ってシャウトするからだ(笑)。ハードコアが役立ってるんだね。

菊池:それがすごくありますね。今は、言葉が届くように歌うことをすごく大事に、歌詞がちゃんと聴こえるように歌うっていうのをとにかく意識しています。

和田:僕が子どもの頃に、ウチの親は歌番組で若い歌手が歌ってるのをを見ながら“何を言ってるか全然分かんない”って文句を言うことがよくあったの。だから歌詞はちゃんと歌わなくちゃいけないって思って、はっきり歌ってきたタイプだと思ってたんだけど、今、若いときの音源を聴くと全然なってないですね。今のほうができるようになってきてるし、僕は音楽に関してはいろいろと遅咲きで、今、だんだん分かってきた感じ。若いときにしか出せない味わいももちろんあるけど、やり直したいことばっかり。ファースト、セカンド(アルバム)はもう、一周回って“若かった”って許せるけど。This is LASTは、アルバムは何枚出してる?

菊池:配信リリースが続いてて、それをどこかのタームでまとめてアルバムとして出すと思うんですけど、今バンドが4年目に入ってミニアルバムが2枚とフルアルバムを1枚出してます。

和田:世代的にどうしても僕はアルバムを重視しちゃうけど、“配信リリース”って聞くと徐々にアルバムとかがなくなりつつあるのかな…とか、リアルに感じちゃうな。僕らの小っちゃい頃はまだレコードだったから、ジャケットも含めて作品として物を残したいという気持ちは今も強くて。とは言えその考えに執着するつもりもないし、時代の動きと共に柔軟に対応したいとは思ってる、けどね。

菊池:カッコいいっす! 僕はCDが好きで、ディスクユニオンに通って中古でCDとかも集めていたほうなので、CDという物として残したほうが良いっていう考えはありますね。

和田:ちょうど今、ソロのレコーディングをしてて揺れ動いてるの。CDにしたほうが良いかな、でもみんな、CDを買うのかな? って。かといってサブスクだけだと物としては残らないしなぁ、って。

▲This is LAST

──個人的なことを言うと、わたしは和田さんのソロ音源もCDで買ってます(笑)。では、音源からライブのお話のほうへ。2組が新宿ロフトに初めて立ったときというのは?

菊池:The Cheseraseraのイベントで、2019年にバーのほうでライブをさせてもらったときが最初です。その次が、去年(2022年)暮れの『スペシャ列伝』に出たときですね。

和田:僕らは、僕ら世代の中ではロフトに出たのがわりと遅くて…同期なんだけど、GRAPEVINEと対バンしたとき(2008年)とかになるのかなぁ? そもそも、バインと対バンっていうのも初めてだったと思うな。

菊池:GRAPEVINE先輩はこの前、ユニゾン(UNISON SQUARE GARDEN)先輩主催のイベントで対バンをさせていただいてメチャメチャ勉強になったことが多くて。リハーサルから本物の音をしてるっていうのが分かって僕にとっては価値のある時間だったし、そういうことに触れることが自分を高められるんだろうなって。

和田:そうかぁ。偉いですね、菊池くんはどんな大人になるんだろうなぁ。

菊池:音楽だけは本気でちゃんとしようと思って。それ以外はもう浮気されようが何でも良いので!(一同笑)

和田:ライブは、好きですか?

菊池:好きです。自分の音源を聴くときもライブ音源を常に聴くようにしてます。

和田:20代のときは僕もそうだったかも。徐々にアルバムやスタジオ録音のものが自分の中でアレンジとかも分かってきたと言うか、自分の中での正解というものが出来てきてスタジオ録音が好きになっていったんだけど、昔はレコーディングも一発録りでやってたから、ライブをそのままスタジオでやってるという意識だったので、じゃあライブのほうが良いじゃんってわりと思ってたかなぁ。This is LASTは音源にストリングスとかが入ってたりするじゃない、それはライブではどうしてるの?

菊池:同期でやって、生音を同期に混ぜてますね。(メンバー)3人だけの音っていう曲ももちろんあるんですけど、(同期で)幅を広げてる感じですね。僕がそもそも、曲を作るときに3ピースだからといって3ピースにこだわることがそこまで強くなかったんです。

和田:そうなんだ、楽曲志向なんだね。

菊池:はい、だから3人の音にプラス何かがあって120点になるならそれで良い、っていう考えのもと、自然とそうなっていきましたね。

和田:なるほど〜、大人だね! 僕はむしろ最近になって同じような考えだけど、若い頃は基本的にライブの再現ができなきゃ駄目だって思ってたから、昔のスタジオ音源を聴いても大体、ギターの音がもう1本足されてるぐらいで基本はギターロックなサウンドだったけどね。

菊池:ファーストアルバムぐらいまではけっこうシンプルにギターサウンドでやってきてました。それ以降で、やってみたかったことをもう少し広げてみようかなと思ってやっている感じですね。

音楽の話を通して、感心するばかりです(和田)

──両バンドも3ピース且つ、和田さんも菊池さんもギター&ボーカルと全く同じですが、ギターの部分で菊池さんが和田さんに感じたりすることなどはどうでしょうか?

菊池:僕もけっこう、ギターを弾くほうなんですよ。楽曲志向で曲を作ってたら弾かざるを得ない感じになっちゃって(笑)。本当はもう少しシンプルにしたいなと思ってるんですけどね。今の時代としても3ピースというバンドの、シンプルなカッコ良さっていうのはすごくウケてる気がしてるので、This is LASTというバンドとしてもそこを目指していかなきゃいけないなとすごく思ってます。(楽曲を)華やかにすることはできてきているので、今度はギター1本のみで勝負するとか。

和田:素晴らしいですね。若いときは、コードや和音を鳴らすのも僕しかいないし、常に音が足りない感じだから、演奏するのも大変なのに音をギャーンと歪ませたり音の壁を作ったりとかしてたけど、最近はミニマムなアレンジっていうものにわりとハマってて、隙間があるアレンジのほうがすごく好き。海外(のヒット曲など)もそうだから、今になって3ピースで良かったかなって思うし、ギターも全部鳴らさないで単音での音作りとか。そのほうが1個1個の楽器も目立ってくるしね。

菊池:僕らも「カスミソウ」(2022年)とか「#情とは」(2023年)といった楽曲で盛った音楽を作ったので、現在進行形で作っている楽曲はけっこう、今仰っていたことを考えながら、引き算をしながら作ってますね。

和田:でも若いときになかなかできないと思うけどね。さらにライブだと、冷静に、クールにって思っててもどうしても力が入っちゃって。ギターってPAを通して大音量で聴けばジャーンって1回やればそれで充分なのに、ジャーン、ジャッ、ジャーンって弾いてる自分がいてさ(笑)。大人になれてないな〜って、どうしても思っちゃうんだよね。

菊池:それ、メッチャ分かります!(笑)

▲TRICERATOPS

──それはお客さんを前にしたライブの魔力でもあるのではないでしょうか?

和田:人前に立つとね、やっぱり力が入っちゃうっていうのはしょうがないっていうところもあるんですけど、でも僕の最近のテーマっていうのはなるだけ力を抜いてやるということで。本当にね、なかなかできない。

菊池:多分そっちのほうが難しいんですよね。ライブの現象として言えば、僕も気持ちとして前に行くことのほうが起きやすいだろうと思っていて。そうなったときに僕は歌に表れるタイプで、ちょっとこってりした歌い方になっちゃったりとか。気づかないうちにけっこうそうなっていたりするので、だから敢えて俯瞰して見られる自分を一人用意しておかないと駄目だなと最近すごく考えてます。フロントマンとしてはその場を掌握しなきゃいけないと思ってるので、支配する人間として頭の中で考えながら、燃えてる部分っていうのも計算しながらライブをやってます。

和田:偉い! ついトゥーマッチになることがあるからね、ライブに入りすぎちゃうと。

菊池:そうです、トゥーマッチ! この言葉に僕、1回病んだことがあって(笑)。ライブを作っていく上で、これはトゥーマッチなのかトゥーマッチじゃないのかを意識しすぎた結果、どうしたら良いのか分からなくなってしまったことがあったんです。

和田:そう、だからどこかでクールな視点を持ってないと。見てる側の人たちにちょっとくどいな、って思われたら最後なんで、そこは僕もなるだけ気をつけたいし、今でもテーマですね。たとえば大御所の人でもどんどんトゥーマッチになっていくとかあるでしょ? 声を必要以上に伸ばしたりとか、溜めて溜めて遅れて歌う歌い方とか。

菊池:それ、思うときがあります。ノリがちょっと後ろになっていくんですよね。

和田:どんどんアダルティーになるって言えばいいのかな(笑)。

菊池:それをレコーディングでも意識するようにしてます、叩くノリとかで“ちょっとアダルティーすぎるぞ!”って言ったりとか、逆に若々しくなりすぎてるとか。それをジャストでいかにやるべきかとかはレコーディングのときに話しながらやってますね。

和田:菊池くんの話を聞いて、感心するばかりです。(一同笑)

<後編に続く>

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