赤ちゃんの遺体遺棄事件に判決「妊娠していない」と嘘つき来日した技能実習生(当時19)の後悔 たった1人寮の風呂で出産・・・“妊娠すれば帰国させられる” 法廷で明かされたこと 広島

ことし4月、東広島市の空き地に赤ちゃんの遺体を遺棄したとして技能実習生のベトナム人の女(当時19歳)が逮捕・起訴された事件。3日に開かれた裁判では技能実習生が妊娠を隠して来日し、会社の寮で1人で出産したことなどが明らかになりました。

判決によりますと、ベトナム人技能実習生の女はことし2月1日ごろ、東広島市の空き地に穴を掘り、1月20日ごろに出産してまもなく死亡した男児の遺体を埋めて遺棄しました。

長い髪を後ろでお団子にまとめ、茶色いシャツに黒いズボンで法廷に現れた技能実習生。

裁判官から「起訴内容に間違いはありますか?」と問われると、「いいえ、ありません」と起訴内容を認めました。

技能実習生は犯行当時未成年だったとして、広島地裁は公判を匿名で進めました。

裁判では、技能実習生が母国で妊娠し、それに気づいた状態で来日していたことが明らかになりました。

冒頭陳述で検察は、
「入国前、母国で交際相手と避妊具をせずに性行為をしたことがあった。その後交際相手とは別れ、10月に日本に入国。8月ころから生理がきていないことや、入国後に腹部が出てきたことなどから妊娠の可能性を認識していた」
と指摘しました。

技能実習生は、妊娠の可能性を認識していたにも関わらず誰にも相談しなかった理由を、被告人質問でこう語りました。

弁護人
「来日前に『妊娠していません』と嘘をついたのはなぜですか?」

技能実習生
「日本に来るのをキャンセルされるのが嫌だったから言えなかった」
「(日本で実習が始まってからも)誰にも相談ができなかった」

弁護人
「妊娠を相談すると、母国に帰らなければならないという心配がありましたか?」

技能実習生
「はい、そうです」

『妊娠すれば帰国させられるー』その情報が正しいかどうかを自分で確認することはなかったといいます。

検察官
「妊娠すれば帰国させられるというのは、誰かに言われましたか?」

技能実習生
「誰から聞いたか忘れたが、出国するときに妊娠したら母国に帰らされるとちらっと聞きました」

検察官
「なぜそんなに日本に居たかったのですか?」

技能実習生
「私は日本に来るために多額の借金を持ちました。それで日本に行けなくなると多額の借金を返済しないといけなくなるから」

検察官
「子どもより借金を優先させたのですか?」

技能実習生
「正直私自身もいろいろ葛藤していたが、どうすれば良いか分からず今回のようになった」

来日からおよそ3ヵ月が経ったことし1月ー。

技能実習生が実習先の会社の寮で寝ていたところ、突然破水。風呂で1人で出産しました。赤ちゃんは男の子でした。全く泣かず、動かなかったといいます。

司法解剖の結果、赤ちゃんは「生きて産まれたと考えて矛盾がない」とされています。

生まれて2日後には唇や爪が黒くなり、亡くなったことを確信。ピンクの毛布に包んで自分のベッドに隠していたといいます。
(法廷で読み上げられた技能実習生の供述調書などより)

検察は、
「会社の寮で出産し、その後も隠していたが男児の死体が腐敗し、においがきつくなったため犯行に及んだ」
「自らの経済的利益を優先させるための犯行で、出産しても強制的に帰国させられることがないことは会社などに聞けばよかったのに聞かず、くむべき事情はない」
などとして懲役1年6ヵ月を求刑しました。

一方で弁護側は、「更生の環境が整っている」などとして執行猶予付きの判決を求めました。

最後に実習生はー。
「子どものために毎日お祈りをしているがどれだけ悔み、反省しても自分の言葉で言い表せない。家族や亡くなった子どものために頑張っていく」
「私がこんなことをしたのに日本の周りの人が最大限のサポートをしてくれて、感謝の気持ちを忘れない。その方たちに恩返しをするために悪いことをせず、周りに困っている人がいたら恩返しをしていく」

それまでつけていたマスクを外し、背筋を伸ばしてはっきりとした声で答えました。

広島地裁の藤丸貴久裁判官は
「被告人は弱年で社会経験が浅く、日本語も堪能ではなかったため妊娠を言い出せなかった経緯に多少同情できる面があるものの、行動は短絡的」
と指摘。

一方で、「支援者による今後の支援も期待できる」などとして懲役1年4か月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。

最後に裁判官が、
「今回分かったと思いますが、あなたの周りには支援してくれる人がちゃんと居ます。今回生きられなかったお子さんのためにも、その人たちの力を借りて、今度は道を間違えることなく幸せに生活するよう心がけてください」
と伝えると、技能実習生は「ありがとうございます」と答えました。

火葬された赤ちゃんの小さな遺骨は技能実習生が引き取っていて、朝起きたら遺骨を抱いてお祈りをしていると言います。

名付けられた赤ちゃんの名前は「ファーローケン」。法廷内の通訳を介して記者にはそう聞こえましたが、その由来や意味、彼女が託した思いは分からないままです。

技能実習生は保釈されて裁判を待つ間、監理団体や支援団体のサポートを受けて生活をしていて、日本語の勉強も続けてきました。

監理団体などは今後も技能実習生が日本で実習を続けられるように勤務先などを調整しているということです。

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