片思いしていた男性も自分のことが好きだったとわかり、晴れて両思いになったのになぜか自分から連絡をする気が起こらず、積極的に会いたいとも思わない。そんな現象に陥った経験はありませんか?
「好きならもっとテンションが上がるはず」と思うけれどそうならないのは、実はそこまで好意を持っていたわけではなかったから?
相手を「好き」と思う自分はどこにいるのか、ある女性の葛藤についてご紹介します。
両思いになれたのに…上手に動けない女性の心の内
好意を確認できたはずなのに
32歳のAさんは「仕事が大好きで」とみずから口にする通り、自分の在り方についてまずホームページを作成する業務に日々真剣に取り組んでいることを話してくれました。
「今は特に彼氏がほしいとは思わないですね」と言いますが、「付き合うことを前提に男性を見るとどうしても休みや年収などに条件をつけてしまうし、好きになった人と交際に発展するのが恋愛の理想かな」と自分の考えをしっかりと持っていました。
それでも片思いをしている男性はいて、「月に一度ほど食事に行く間柄で、LINEでメッセージのやり取りもあるし、その程度で十分でした」と振り返ります。
取引先に勤めているというその男性は35歳、意気投合したのは会社が合同で行った飲み会で話す機会があり、自分と同じように仕事にプライドを持っている姿に共感を覚えたからでした。
「話していて楽しいし、私の仕事ぶりを褒めてくれたりいたわってくれたり、男友達とかいない私にはすごく新鮮で。
仕事をしているときにLINEでメッセージが来るとうれしくて、そのネタで平日の夜に何時間も電話で話すこともありました。
好きだと自覚はあるけれど彼のほうはどうかわからず、それでも楽しく過ごせていれば満足でしたね」
片思いでもいい、とAさんが思っていたのは、「その距離感で満足していたから」。
それを先に踏み込んだのは男性のほうで、ある週末の夜に「好きだ」と告白され、両思いだったことがわかりました。
「うれしくなかったのですか?」と尋ねると、Aさんは少し考え込んでから「うれしかったです。同じ気持ちだったとわかって、ありがたかったし心臓がドキドキして大変でした」と苦笑いのような表情を浮かべました。
Aさんも同じく好意があったことを伝え、ふたりは晴れて交際に進める間柄になりましたが、立ち止まったのは「お付き合いするかどうかはまた別の話」とAさんの思考が動いたから。
よくあるのは告白が成功してそのまま恋人関係になることですが、Aさんは「好きだけど、恋人になるのはまだ早い」と進展にブレーキをかけます。
「男性には何と言ったのですか?」と尋ねると、「これからお互いのことを知っていって、いいと思ったらお付き合いしましょうと伝えました」とAさんはきっぱりした口調で答えました。
交際を一旦保留にした理由とは?
どうしてそのまま彼氏彼女の関係になるのを避けたのか、Aさんに理由を聞くと
「仲はいいけれどそれまでは私も表面上で取り繕うときも多かったし、もっと知りたいと思いました。
いきなり付き合うってなると約束するとか会う時間を作るとか考えるのが大変だし、自然に恋人になれたらいいなあとそのときは思って。
彼もそれでいいと言ってくれました」
と、そのとき男性に正直に本心を明かしたそうです。
「好きになった人と交際に発展するのが恋愛の理想かな」と話していたAさんですが、それが実現する可能性のある男性が出てきても、冷静に自分の感情をコントロールしていたともいえます。
お互いにそれでいいと納得できたのなら問題はない、と思ったのですが、Aさんは眉をしかめて言いました。
「でも、テンションが上がらないのです。
彼のことはもちろん毎日どんなときも考えるし、好きだなあと実感するし、こんな私が彼に好かれているのだと思うと叫びたくなる瞬間もあります。
なのに、なぜか私から連絡する気が起きないというか、両思いになったらどんなメッセージを送るのがいいのか考えてしまって。
どこかで『好きなら連絡をくれるはず』と彼からのアクションを待っている自分がいて、甘えたいのかなとか混乱しました」
自分を客観的に見ることができるのがAさんの長所だと感じますが、積極的に好意を伝えられない理由がわからないのはなぜなのでしょうか。
「両思いとわかってから2日、彼からはLINEも電話もありませんでした。
でも、それまでも私からメッセージを送らなかったらそれくらい空くのは普通で、特に気にはしなかったのですね。
『両思いになって最初のメッセージは彼からほしい』みたいな気持ちがあったのですが、3日目に届いたのは普通の挨拶の文章で特に恋愛感情がわかるものはなくて、肩透かしを食った気分でした」
それもテンションが上がらない理由かも、とAさんは言いますが、彼から「ごく普通」のメッセージが来て自分もそれに合わせて挨拶を返して終わり、それからまた2日、連絡のない日が続きました。
それまでは、Aさんから他愛もない内容を送っては盛り上がるようなこともあったのに、「両思いになったから、そこまでしなくてもいいのかなって。
自然と気が向いたときに話すくらいが彼にもプレッシャーにならないかなとか、いろいろ考えました」
と、とにかくAさんは男性との距離感について悩んだそうです。
“両思い状態”を受け止められない
気になったのはAさんの「甘えたいのかも」という言葉で、それは好きな人になら誰でも持つ願望かと感じますが、「要は、自分を満たしてくれないからテンションが上がらないってことですかね」と気軽な調子で尋ねると、
「やっぱりそうなのでしょうか。子どもじゃあるまいし、そんなの構ってちゃんじゃないですか」
と、想像以上に深刻な顔でAさんはこちらを見ました。
今までは、彼に好かれていなくても自分が向ける好意にAさんは満足していました。
それが両思いだとわかってからは、今度は彼に好かれる自分が見たくなるのは、また誰にでもあるのではと思います。
問題なのは「そうしてくれなかったら好意が下がる」状態で、それで本当に相手のことが好きと胸を張れるのかどうか、Aさんは自分の気持ちに自信を失っていました。
「前と変わらないような接し方は、難しいのですね」と言うと、「はい。たぶん、新鮮さがほしいのかなと思います」と、Aさんはやはり自分の心理を客観的に掴んでいました。
そこまで理解しているのに、その自分を超えることができない。その葛藤は、プライドが高いとかそんな方向の話ではなく、「両思いになった自分」を正面から受け止めていないのかもと感じました。
「気軽に話しかけることができていた片思いの人」が、今は「自分のことを同じように恋愛感情で好きでいてくれる」という事実は、心からうれしい反面これからどんな自分を見せていけばいいのかで悩ませてきます。
好意があることをもう隠す必要はないのに、今からこそ積極的に伝えていくことで相手もまた心を開いてくれるのに、わかっていてもその「未知の領域」に身を置く勇気がないともいえます。
両思いとわかってからすぐ恋人関係のステータスを手にしなかったのは、まず自分自身がその状態に落ち着けないと無意識にわかっていたのかも、と暗い表情で肩を落とすAさんを見て思いました。
「好きなのですよね」
静かな声でそう尋ねると、Aさんは顔を上げまっすぐにこちらを見て「はい」と答えます。
男性がいないときでも、関わってくれていないときでも、姿や声を思い出しては慈しむ自分がいる。
その自分を、Aさん自身が大切に受け止める必要があります。
「好き」はどこで証明されるのか
ふたりの現状を見てみると、「両思いとわかる前より心理的にも物理的にも距離ができている状態」で、週末にどちらからデートに誘うこともなくLINEで短いやり取りをするのみ、そこでも「好き」といった言葉はなく、会わない時間が増えています。
男性の気持ちを想像すると、すぐ付き合うことを避けて「お互いを知っていきましょう」と言ったにも関わらず前より積極性を失っているAさんを見て、不安を感じているのかもなと思いました。
男性にとっても、両思いになった自分はAさんと等しく未知の領域にいます。もしからしたら自分はもっとAさんと過ごす時間がほしいと思ってもそれを出せていない可能性もあるのです。
拒否されたくない、自分だけが好きなのだと思いたくないのは当たり前で、どうしても相手からのアクション待ちになるのは、男女関係なく同じこと。
そこをどう乗り越えるか、向き合わないままで今の状態を続けるならいずれ好意が萎えていく流れにしかならず、非常にもったいないと思いました。
「『好き』はどこで証明されるのでしょうね」とふとつぶやくと、Aさんはこちらを見たまま「伝えることですよね。言わないとわからない、は仕事でもよく感じますが、彼ともそんな話をしたことがあります。ふたりで『好きなら言えるよね』と笑いました」と、はっきり答えました。
それがわかっているのなら、現状を変えるにはどちらかが先に動くしかなく、それは男だから女だからではなく素直に「あなたを好きな自分」を認めた側ができること。
そう言うと、Aさんは無言でうなずきました。
「あなたを好きな自分」を知られることを、両思いになっても避けたがる人は実際にいます。
両思いになったからこそ、「好きならこうするはず」と相手が証明してくれることばかりに躍起になり、自分が伝える側になるのを忘れるのですね。
「応える側」になりたがるのは抱える気持ちに自信がないから、好かれている自分を見てからでないと動けないという弱さです。
ふたりがその状態になれば関係が良い方向に進むはずがなく、本音はどんどん引っ込み、いつの間にか「好意を証明するゲーム」のような言葉のやり取りになる人も見ます。
そうではなく、みずからが「あなたを好きな自分」にしっかりと胸を張る強さが、関係を相手任せにせず居心地のいい距離感を考える基本になります。
「好き」は自分の問題だからこそ
自分が好意を向けることを、相手は受け止めて当然であり「その自分」に責任をとってほしいと思う人がいますが、こんな人がせっかく両思いになっても愛情を育てる姿勢を伝えられずに短期間で切られるのを、筆者は何度も目にしています。
Aさんはそこまで無責任ではなく自分の状態についてきちんと見る目を持っていますが、両思いであっても「その自分」をみずから引き受ける勇気が足りないのかもと感じました。
ふたりの関係は以前とはもう変わっていて、これからはふたりで関係を大切にする姿勢が欠かせません。
どちらが先に「好き」と言うか、どちらが誘うかではなく、意識するべきなのは自分の気持ち、「この人とどう在りたいのか」という本音です。
本音をちゃんと掴み臆することなく伝えていくのが自分のできること。「好き」はどこまでも自分の問題であって、相手の在り方によって決まるものではありません。
好きな人と両思いだとわかったのにテンションが下がる自分、彼への好意に自信を持てないことにAさんは悩んでいましたが、それは「彼とどう在りたいのか」を掴んでいないせいであり、まずはそこから、自分を見つめ直すのが正解と感じました。
恋人がほしいから誰かを好きになるのではなく、「好きになった人と交際に発展するのが恋愛の理想」と考える人は、相手と楽しいコミュニケーションをとることにためらいはないですが、その反面いざ気持ちが通じたときにその次の段階について尻込みすることがあります。
人を好きになる力はあっても、両思いの「その先」は必ず相手が存在する領域で、お互いの気持ちを受け止め育てていく新しい器が必要になるのですね。
それをともに大きくしていけるのが交際の理想であり、Aさんもまた、心を開いてそうなりたい自分を伝えていくのがふたりのためではないでしょうか。
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両思いになれたのにテンションが下がるのは、甘えたいし満たしてほしいという願望が潜んでいたり、その次の領域に戸惑っていたり、原因は自分にあるといえます。
どんな人間関係でも、好意を伝えていくことが居心地のいい距離感には欠かせない姿勢で、相手を好きな気持ちをしっかりと自覚することが、何よりも自分のため。
ひとりではできない恋愛だからこそ、まずは自分から、伝えることを忘れずにいたいですね。
(mimot.(ミモット)/ 弘田 香)