<社説>ふるさと納税 理念に立ち返る議論を

 ふるさと納税が「1兆円市場」に成長した。総務省が発表した2022年度の寄付総額は9654億円で、この5年で2.6倍に増えたが、地域活性化という当初の趣旨から逸脱し、返礼品のルール違反や地域間格差の拡大などの問題が生じている。 市町村を応援する厚意が税収に反映され、地域活性化や子育て、福祉に生かされるのが本来の理念だ。原点に立ち返る議論を進めるべきだ。

 ふるさと納税の制度は2008年度に始まった。寄付額の上限を超えなければ、自己負担分の2千円を除いた額が住民税などから差し引かれる仕組みだ。

 人口の集中する首都圏に入っていた税収を地方自治体に振り分け、地場産品を贈るという循環の中で、地方を活気づけてきた側面はある。半面、実質2千円の負担で高額な返礼品がもらえる仕組みによって、いびつな競争が生じたことも指摘されてきた。

 地域にゆかりのない返礼品があふれ、「官製通販」とも呼ばれるのが今のふるさと納税のもうひとつの顔だ。寄付を集めるために地場産品と呼べないような返礼品まで出品し、納税者の“お得感”を刺激するような行為は疑問だ。

 寄付獲得競争が激化したことから、総務省は19年6月から返礼品について「寄付額の30%以下の地場産品」とルールを変更した。返礼品を含む自治体側の経費は寄付額の50%以下に抑える必要がある。

 ただ、経費に関する「寄付額の50%以下」というルールはあいまいだ。返礼品の調達費や送料、寄付の受領証明書発行費などが含まれていないことから、実質的に50%を超える経費を負担する自治体もある。寄付額の半額以上が経費に消える実態を放置してはならない。

 総務省は10月から返礼品の調達費なども経費として計上するようルールを変更するが、今後も経費の定義について自治体の持ち出しが増えないよう適時見直すべきだ。

 地場産品の基準も10月から厳格化される。精米や熟成肉については、原材料を同じ都道府県産とする。別の自治体で製造された電化製品に地元のタオルなどを添え、地場産と称する行為も制限する。いずれも地域の産業振興に結びつかない「地場産品」の返礼品の乱発を防ぐものだ。

 ただ、ルールの厳格化によって、地場産品を「持てる自治体」と「持たない自治体」の格差がさらに広がる可能性も指摘されている。

 県内では寄付額の格差が既に顕著となっている。総務省の統計では、21年度中、県内で最もふるさと納税の寄付額が多かったのは宮古島市の8億1984万円で、最も少なかった粟国村の13万3千円と大きな開きがあった。

 財政力が脆弱(ぜいじゃく)な自治体にとって、ふるさと納税は貴重な自主財源となる。地域間格差の解消に向け、制度見直しを重ねることが今後の課題だ。

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