「広島を訪れ実相を見つめて」若い世代の当事者意識が核廃絶への道につながる 平和教育を受けた国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん【被爆78年の願い】

インタビューに答える、国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん=6月21日、東京・東新橋

 国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん(60)はコメンテーターやミュージシャンとして幅広く活躍する。米国籍ながら父親の仕事の関係で広島に移り住み、小中学校で平和教育を受けた。原爆が題材の漫画「はだしのゲン」も読んでいた根っからの広島人だ。

 世界の平和の一丁目一番地は原爆を二度と使わないことだと信じ、多くの人に広島を訪れ、現実を見てほしいと願う。日米双方のアイデンティティーを持ち、葛藤し続けてきたモーリーさんに、核兵器を取り巻く現状をどう見ているのかインタビューした。(共同通信=益子真之介)

 ▽自分の意志で日本の小学校に転校

モーリー・ロバートソンさん=6月21日、東京・東新橋

 米国人で医師の父親が米政府のプログラムに志願し、原爆による人体への影響を調査するために設立された原爆傷害調査委員会(ABCC、現・放射線影響研究所)に勤めることになりました。結局、5~13歳の8年間を広島で過ごしました。毎日学校が終わると、ABCCの建物に置いてあったたくさんの漫画を読みながら、父の仕事が終わるのを待っていました。日本語に対する愛着や、漢字を読めるようになりたいという欲求が強まっていきました。

 小学5年生の時に、通っていたインターナショナルスクールで日本語が禁止されたのをきっかけに、自分の意志で公立の小学校に転校したんです。せっかく日本の小中学校を卒業するのに、日本語の読み書きもできないのはまずいだろうと。そこから急速に日本化が進みました。日米の学校を行き来する中で、文化の違いにとまどうことも多かったです。

 ▽「普通の人たち」が広島を訪れるようになった
 昔は広島を訪問する外国人は高収入、高学歴で意識の高い人が多かった。冷戦時代には、限られた知識人や科学者のような人たちしか広島を訪れませんでした。
 最近は訪れる外国人が増え、原爆資料館周辺でアイスクリームを食べているような一般家庭の人もたくさんいます。日本のアニメ人気や円安も後押ししているのでしょう。

 取材で広島を訪れると、原爆資料館で被爆の実相に触れた人々が青ざめた顔をして出てきます。米国の教科書にはあまりはっきりと書いていないから、実相を本当に知らないのだろうと思います。原爆は戦争を終わらせるための必要悪だったのではない、核兵器は使ってはならないということを感じているはずです。

 彼らは各国の有権者です。これまでの政治や外交ルートとは違う、民間レベルで人々が広島に目を向け始めており、広島にとってチャンスだと思っています。

 普通の人たちが世界中から広島を訪れていることはすごくいいトレンドです。広島の人たちには、もっと外国語で世界に発信し、訪れた人たちを案内してほしいです。

広島市内の原爆資料館=2023年4月

 ▽民主主義の価値観を共有したG7サミット
 5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を現地で取材しました。個人的な判断では成功したと考えています。ロシアはウクライナに侵攻し、中国は台湾を脅かしています。G7は中国やロシアへの経済的依存を強めてきましたが、民主主義や人権が守られる、隣国を侵さないことが大前提で、それが保障されて経済協力があることを示しました。

 民主主義陣営としての価値観を強く共有したシンボリックな会議でした。この旗を岸田文雄首相が振ったことの意味は大きいと思います。サミットを通じ広島の認知度が高まった面もあります。

 ▽広島を訪れて衝撃を受け、核廃絶に向けた行動を

モーリー・ロバートソンさん=6月21日、東京・東新橋

 核兵器を廃絶するために何ができるのでしょうか。例えばドイツでは若い人の投票率も高く、連邦議会議員の平均年齢が下がりました。おそらく米国やイギリス、フランスでも若い人たちの政治意識と投票率が上がっていくでしょう。そういう世代が広島に来ており、核廃絶を強く願う世論が喚起されていく可能性があります。

 日本の若い世代はまだ当事者意識が薄い。もっと広島に足を運び衝撃を受け、自分たちの投票や行動で世界は変えられる、何かやろうと思ってくれたら核の廃絶は近づくでしょう。まずは外国人のように広島や長崎に行き、核というものを見つめてほしい。友達と、日常的に話し合えるようなトピックになってほしいと思います。
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 1963年米ニューヨーク生まれ。米国や富山県でも暮らした。母親は日本人で新聞記者だった。

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