社説:ヒヤリ・ハット 保育の質向上が不可欠

 前兆をつかみ取り、共有することで幼い命を守りたい。

 政府が、全国の保育所や幼稚園で起きた子どもの置き去りなど、人命の危険につながりかねない事案(ヒヤリ・ハット)計100件を収集した初の事例集を作った。

 約5年間で実際に把握した事案で、具体的な内容では、園内などからの「抜け出し」、公園や教室での「置き去り」、「見失い・行方不明」などが並ぶ。

 要因は、職員の確認不足や思い込みのほか、散歩中に園児を見失ったケースでは「職員配置に余裕がなかった」など、人員体制の問題点が挙げられた。

 「ハインリッヒの法則」によれば、1件の重大事故の陰には29件の小さな事故があり、その背後には300件のヒヤリとしたり、ハッとしたりする出来事が隠れているとされる。

 だが、こうした事例は、自治体への届け出が必要なく、注意点などの共有が不十分だった。大事故の「芽」を摘むためには洗い出すことが欠かせない。

 事例集の作成は2022年9月に静岡県で起きた通園バスでの3歳女子置き去り死がきっかけだ。

 通園バスには今年4月から、再発防止のための安全装置設置が義務付けられた。

 だが、設置完了を目指していた6月末時点で、設置割合(予定も含む)は55.1%。京都府は51.2%。滋賀県は20.3%と全国最低と遅れている。

 送迎以外で使うバスは義務化の対象外である。7月には園外行事用のバスで、園児が取り残された事例も群馬県で発生した。幅広く義務化や財政支援の対象に含めるべきではないか。

 こども家庭庁によると、全国の保育所や幼稚園で、子どもがけがなどをする事故は、22年で過去最多となる2461件発生した。うち5件は死亡事案だった。

 こうした背景にあるのは、現場での慢性的な人手不足にほかなるまい。待機児童対策で受け皿拡大を優先させた結果、要員の確保が追いつかず、保育の「質」が後回しになったのは明らかだ。

 政府は「次元の異なる少子化対策」で、欧米と比べて少ない保育士を増やす方針を掲げた。4~5歳児の配置基準は70年以上も見直しがない。手厚く基準を改めるとともに、待遇改善も必須だろう。

 子ども一人一人に目が届き、事故を未然に防ぐ現場の態勢づくりとともに、外部の目や手助けも求められる。

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