女子サッカー指導者となった亘崇詞さん(城西大学監督)が語る「女子サッカーの面白さ」と「なでしこジャパンへの期待」が深い

いよいよノックアウトステージが始まる女子ワールドカップ2023。

グループCを1位で突破した池田太監督率いるなでしこジャパンは5日、ラウンド16でグループA2位のノルウェーと対戦する。

ここからは、負ければそこで終わり。前回大会はオランダに1-2で敗れラウンド16敗退に終わっており、是が非でもこれを上回りたいところだ。

日本の女子サッカーの未来を切り開くためにも非常に大事なノルウェー戦となる。

そんな日本の女子サッカー界で、現在指導者を務めている一人が、亘崇詞さん。城西大学女子サッカー部の監督として日々ピッチに立っている。

アルゼンチンなど南米でプロ選手としてプレーし、引退後は指導者のほか日本屈指の“南米通”としてJ SPORTSなどで解説者としても活躍していた亘さんに、女子サッカーの魅力やなでしこジャパンへの期待などについて語ってもらった。

「普通のチームではやらないところを突き詰める」日本

女子サッカーの面白いところは、バレーボールだと女子は男子よりもネットが低いです。ゴルフも女子はちょっと前から打っていたりしますよね。でもサッカーは同じピッチ、ゴールの大きさでやっています。

ボールを飛ばせる距離も、たとえば右サイドバックから左のワイドの人に斜めのボールをギューンと蹴ることができる人なんて世界でたくさんはいないわけです。でもそれを何本かのパスを繋ぎながら「AからBに届ける」のが日本のサッカーだと思うんです。

だから、あの繋ぎの妙とか、男子サッカーよりも相手が嫌がるボールの運び方。別に1本のパスを繋がなくても、ドイツやイングランド、もしかしたらアメリカの選手よりもスピードはないかもしれないけど、中盤で1、2本パス交換できることでタメができ、その間に良いタイミングでサイドの選手が上がっていける。

そういうのがやっぱり女子サッカーの面白みなんですよ。

実は、女子サッカーには、そういうところに男子とは違った深みがある…。以前いた日テレ・ベレーザにもたくさん代表の選手はいました。

あの頃の一番強かった時の日本というのは、普通のセオリーならスライドして4-4-2で内側を切って外に誘導させるところを、終始縦切りの中(中央)に変えさせて取れ!みたいな、めちゃめちゃ要求がきつかったらしいんです。

それを90分やれとか120分…「これ無理でしょ」みたいなものをやっていたのがやっぱり日本なんですよ。

僕の中でやっぱり日本は女子バレーも女子サッカーもちょっと似ていて、「蛇とマングースの戦い」みたいなところを見せられるのが女子サッカーの面白さかなと。

海外のパワーのある選手がバーンというスパイクを打ってくるのを、回転レシーブで全部止めるという。ちょっと常軌を逸している方法というか、めちゃくちゃ練習してそれで勝っていくという。そこにみんなが共感して応援したわけじゃないですか。

だから、普通のチームではやらないところを突き詰めていった結果、日本の選手たちがオランダやアメリカを倒すみたいなのは、バレーも面白いですし、女子サッカーも絶対に面白いはずなんです。

そこを追求して、世界が「日本ってすごいよね」「だから真似したくてもできないんだよね」というのを、日本のサッカーにどうしても、特に女子サッカーにはもっと期待しちゃう。女子サッカーの指導を最初1年だけと思ったけど、面白いカテゴリーだなと感じたのはそういうところでもあります。

そうした中で昔、なでしこフィーバーが沸き起こった時でいうと、距離というよりキックの質で勝負していたりしました。

以前で言うと、宮間あや選手のキックもすごかったですよね。女子の場合セットプレーでの選手の配置がちょっと男子と違ったりするんですよ。なぜかと言うと、男子はやっぱりニアにすごく速いボール入れられたらもう止められない時とかがあるじゃないですか。だから前の「ストーン」に何人か多く置いたりします。

でも、女子であの質のボールを蹴ることできる選手は少ないんですよね。やっぱりパスやキックのスピードが違うんです。

そこで距離を蹴ることはできなくても質で勝負していた。驚くほど質の良い速いボールを、日本では宮間選手が左右両足で蹴れたというのは、海外のチームからしたら脅威だったと思います。単純に「逆サイドまで蹴れ!」といったキック力とはまた別な話ですから。

ニアポストに鋭いボールを蹴る選手がどんどん出てくるとか、細かいセットプレーもたくさん持っているといったところになると、やっぱり日本はすごいなと。

陸上の400メートルリレーで、海外のチームが雑なバトンリレーをしている中、日本はそこを突き詰めていく。他の国は気づかなかったことだったと思いますし、真面目に練習もしていなかったでしょう。素晴らしいですよね。

あれを、女子サッカーの場合はできる場所がいっぱいある気がするんですよ。深い目で見ていると「おお、指導者の要求ができている!」みたいなのがあるんです。

だからやっぱり、日本の女子サッカーは世界で一番であってもらいたいですし、また世界が驚くようなことを出してもらいたいです。

なでしこジャパンは「世界に影響を与えるチーム」であってほしい

よくオランダの男子サッカーでは、これまでワールドカップは獲れていないですけど、毎回あの70年代に(ヨハン)クライフさんとかが「守備も攻撃もこんなサッカーあるんだ」と世界に影響を与えたように。

98年のワールドカップもそうです。この時もオランダは勝てなかったですけど、現代サッカーの基本というか、もう本当にボー

ルを取られないで、最後の崩しのところでピボに当てて入っていくみたいな、フットサルみたいなね。人が入れ替わったりだとか。

あれを見せられて影響を受けた人もいるはずなんですよ。(マルセロ)ビエルサなんかもそうです。

だからオランダだって常に何か勝てないですけど、世界のサッカーにこう何かをモノを言うというか。でも日本はやっぱり結果も出すし、世界の女子サッカーに「こういうのあるんだ」と。2011年のように、スペインやオランダといった国が「自分たちもやらなきゃ」と思わせられるようなものを出していってくれると期待してしまうんです、僕は。

日本の女子サッカーは、男子よりも結果が出せるチャンスがあるわけです。他の国であれば女子のほうに強化費が行くかもしれないですよ。でもそんな中で、みんなプロばかりではないですから、仕事をしながらもやっている選手がいたり、学生ながらプレーしている選手がいたり。

みんなが本当に普段の生活の中、色々なものを背負ってやっている。今後のWEリーグやなでしこリーグを盛り上げるためにも…サッカーはやっぱり毎回オリンピックかワールドカップで結果を残さないと人気もガクッと下がってしまうスポーツなんで。

しかし、日本のスペイン戦は凄かったですね。世界中がスペインも日本もボールを繋ぐと思っていたら、まさかの、しっかり守ってカウンターでそのカウンターが嵌まりにハマって。本当に世界のサッカーは驚いたと思いますよね。日本代表の素晴らしいゲームプランだったと思います。

スペインではかなり自国の代表に厳しい記事も出ていましたが、予選(グループステージ)の話ですから。次にスペインと対戦するときには同じ戦いでは同じようには勝たせてくれないでしょう。ノックアウトステージになるとまた戦い方も違うはずですからね。

あまり重圧を与えてもいけないですけど、良いサッカーをして、また女子サッカー、「日本は強いな」というイメージを多くの方に持ってもらいたいです。

今後の子供たちのためにも絶対に結果を出して、また憧れられる代表になって、女子サッカーがまた盛り上がるようになってくれたらなというのを期待してしまいます。(了)

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