マジでうまい…!横浜で出会った「真っ赤なカレー」の未知のおいしさに感動した!

【サリサリカリー】 サリサリカリーと第一遭遇したときのヒトサラ。骨についた肉がホロホロとはがれるぐらいじっくりと煮込んであった

ラー油のような真っ赤な海に鶏肉が浮かぶカレー。

見るからに辛そうだ。完食できるのだろうか。

それがこの店『サリサリカリー』と対座したときの第一印象だった。

(メニュー写真)サリサリカリーの真っ赤なカレー

ところが、それがまったく辛くなかった。

辛いどころか、一杯の水のように、すうっと自然に、身体に入ってくる。

ちょっと塩味があり、滋味深くて、病みつきになる味だった。

【サリサリカリー】 はじめて目にしたときのサリサリカリー。見るからに辛そうだった

第一印象と、食べた感想がこれほど間逆な料理はないだろう。

日本人が思い浮かべるカレーとはかけはなれていたが、後ろ髪をひかれるように、すぐに再訪した。

【サリサリカリー】

東横線白楽駅から徒歩7分。

店の入口にかかげられた看板に「一部の人に理解される」と書かれている。

どういう意味なのか、女性スタッフに尋ねた。

【サリサリカリー】

「この店をはじめた私の父が考えたコピーです。『うちの料理は俺が考えたレシピではない。パキスタン人の家で代々受け継がれてきたレシピ。おいしいに決まっているけど、人によって好みがある』と父は言っていました」

居候先のパキスタン人家庭でカレーのレシピを覚えた

【サリサリカリー】 防止をかぶっているのが謙司さん。ダンディで、カッコい

父の名は、柴謙司(2019年死去、享年75歳)。

いつどこでこの料理のレシピを習ったのかを説明してもらう前に、謙司さんがどんな人だったのか、娘さんに話を聞いた。

「寅さんみたいな人でした。寅さんと違うのは結婚したところ。結婚しちゃった寅さん(爆笑)」

寅さんみたいな人だった謙司さんは、娘に「さくら」と名付けた。

【サリサリカリー】 結婚しちゃった寅さんの娘さくらさん

結婚しただけでなく、定職についたところも寅さんとは異なるようだ。

札幌にいたとき、ペルシャ絨毯の販売していたパキスタン人と知り合い、仕事を手伝っていた。

公私共にその方と親しくなった謙司さんは、1993年頃パキスタンへ飛んだ。

「弟さんの結婚式に招かれた父は、2か月ぐらいその方の家に居候しました。お手伝いさんがいるような上流階級だったそうです」

人様の家に居着いてしまうところなど、まさに寅さん。

居候中いろいろな料理をご馳走になり、そのうちのひとつのレシピを教えてもらった。

【サリサリカリー】 謙司さんの写真も壁面に展示されている

「『はじめて食べた味だったけど、どこか懐かしいカレーだった』と言っていました」

2000年に札幌に『カラバトカリー』を開業。

居候させてもらった、パキスタン人の家で長年継承されてきたカレーを提供することにした。

【サリサリカリー】 謙司さんが札幌から乗ってきた愛車が店頭に置かれている

寒いところが苦手だった謙二さんは沖縄への移住を決意。

愛車で札幌から沖縄へ向かう途中、縁あって立ち寄った横浜市で『サリサリカリー』を2008年にオープン(その後、現在の場所に移転)。

【サリサリカリー】 席に着くとサラダに続き、カレーが運ばれてくる。チャイがついて1300円

カレー専門店もインド料理店もスリランカ料理店も欧風カレー店もメニューが豊富だ。

ところが、謙司さんはひとつのレシピしか教えてもらわなかったがゆえに、『サリサリカリー』では一種類しか料理を提供していない。

席に着けば、有無を言わさずサラダに続き、真っ赤な油が浮かんだカレーが運ばれてくる。

【サリサリカリー】 とろとろに煮込んだ鶏肉がまじでうまい。原稿を書きながら白楽に飛んでいきたい衝動にかられている

15~16種類のスパイスで鶏肉を長時間煮込んで仕上げる

「父が作ったこのカレーをはじめて食べたのは30年近く前。当時まだカレーがブームではなかったし、私自身スパイスにそれほど馴染みがなかったこともあり、ある意味衝撃的でした」

【サリサリカリー】 カレーに使うスパイス(一部)。(真上から時計回り)ブラックペッパー、 グリーンカルダモン、クローブ、クミン、コリアンダー、ブラウンカルダモン、チリペッパー、ウコン、シナモン

15~16種類のスパイスや炒めたタマネギ、鶏肉などを寸胴鍋で煮込む。

「夜ほぼ完成させたものを翌朝仕上げて提供しています」

骨付きの鶏肉を長時間煮込むため肉がホロホロ。骨についた肉がきれいにはがれる。

【サリサリカリー】 さくらさんの娘みづきさん

現在さくらさんと一緒に、さくらさんの娘みづきさんが店を切り盛りしている。

みづきさんが生まれたのは、謙司さんが札幌に『カラバトカリー』を開業する4年前。

謙司さんのカレーをはじめて食べたときの印象をみづきさんに尋ねた。

「物心ついたときからジィジのカレーがあったので、いつ食べたのか、どんな味だったのか記憶にありません。ジィジが作りはじめたカレーを毎日食べていますが、飽きのこない味です」

【サリサリカリー】 カレーを煮込んでいた鍋。鶏肉などをスパイスと一緒に長時間煮込むことで、ラー油のようなものが浮かぶようだ

カレーらしくないカレー。けれど、飽きないだけでなく、癖になる味。

まったく辛くないが、食べ終える頃、身体が火照ってくる。スパイスの効果だと思われる。

インドの家庭料理研究家の知人によれば、インドの家庭では家族の体調が悪くなるとお母さんがスパイスを調合してカレーを作るそうだ。

パキスタンでもインドの家庭と同じように、スパイスの効能を考えたカレーが綿々と作られてきたのではないだろうか。

居候先の家庭で謙司さんが教えてもらったレシピもそのひとつ。

白楽周辺に住む人は身体の調子が悪くなったり、二日酔いの日は謙司さんのカレーを食べに足を運んだ。

謙司さん亡き後も、体調管理のために『サリサリカリー』へ通う人が少なくないという。

食後のチャイと一緒にデザートも愉しめる

【サリサリカリー】 セットについているチャイと、別途オーダーするデザートのハニートラップ(500円)

食事が終わるとチャイが運ばれてくる。このチャイも居候先で教えてもらったものだ。

どうやって作っているのか、みづきさんに尋ねた。

「紅茶、牛乳、フェンネル、カルダモンで作っています。向こうはもっと甘いのかもしれませんが、あまり甘くしていません」

「ハニートラップ」と命名した、ヨーグルトを使ったデザートもある。

このデザートは謙司さんが横浜移転後、作りはじめたそうだ。

【サリサリカリー】 食べたことのない味と出会い、病みつきになった

結婚しちゃった寅さんだからこそ居候先で習ったカレーを食べられる店が横浜の他、さくらさんの妹が営む『サリサリカリー盛岡店』、さくらさんの兄が継承する札幌の『カラバトカリー』で味わえる。

カレー好きからすれば、結婚しちゃった寅さんで良かったと思うのだが。ね、さくらさん?

店舗概要

【サリサリカリー】

住所/神奈川県横浜市神奈川区西神奈川3-9-2

電話/045-294-2136

営業時間/11:30~15:00、17:00~20:00(LO19:40) 土日祝11:30~20:00(LO19:40)

定休日/第3水曜、木曜

冷凍カレーの用意もある。1300円(400グラム/2人前)。全国発送可(送料別)

すべて税込

【カラバトカリー】

住所/北海道札幌市南区藤野2条12- 6-1

営業時間/11:30~17:00

定休日/水日曜

【サリサリカリー盛岡店】

住所/岩手県盛岡市内丸5-3

営業時間/11:30~14:00

定休日/月日曜祝日

(うまい肉/ 中島 茂信)

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