社説:国産ワクチン 系統的な研究開発を続けよ

 「周回遅れ」の現実を直視せねばなるまい。

 国内企業が開発した新型コロナウイルスワクチンが初めて、厚生労働省から製造販売の承認を受けた。

 第一三共(東京)が1月に申請し、今週に認められた。2021年2月に第1号で承認され、国内で接種を始めた米ファイザー製をはじめ、米欧のワクチンから2年以上の出遅れである。

 コロナの世界的流行がヤマを越え、感染症法上の「5類」に移行した中、「いまさら」の感を抱く人が少なくなかろう。

 コロナワクチンを巡っては、流行当初の接種開始の遅れや供給不足による混乱、未使用品の大量廃棄など多くの課題が浮き彫りになった。反省を踏まえ、感染症危機から国民を守るために国産ワクチンをどう位置付け、役立てるかが問われよう。

 第一三共のワクチンは、国内で使われてきたファイザーや米モデルナと同じ「メッセンジャーRNA」タイプ。18歳以上の追加接種を対象にした国内の臨床試験で、同程度の有効性と安全性が確認されたという。

 ただ、米2社は世界で現在拡大中のオミクロン株派生型「XBB」対応ワクチンを開発し、厚労省は9月以降に使う方針だ。これに対し、第一三共は初期の従来株への対応品で、国内使用のめどは立っていない。

 また、塩野義製薬(大阪)の組み替えタンパクワクチンは、有効性を明確に評価するのが困難として継続審議となった。国内勢の視界は不透明なままだ。

 周回遅れの背景には、長期的視野でワクチン研究・開発への投資を怠ってきた国や企業の姿勢があるのは否めない。

 日本はかつて感染症研究で世界に先行していたが、公衆衛生の改善で関心が薄れる中、長期に巨費がかかるワクチン開発の弱体化が進んだ。

 目先の成果や利益を優先して各分野の基礎研究を軽んじ、革新性を生み出せずにいる日本の技術力の地盤沈下を象徴していよう。

 政府は21年6月、長年の不作為を認め、総額5千億円超を投じる「ワクチン開発・生産体制強化戦略」に乗り出した。第一三共も300億円近い支援を受け、芽が出始めた段階だ。

 同社は、XBB対応の早期投入を目指す。だが、実現しても先行する海外勢からシェアを奪える保証はない。5類移行後も本年度内は無料接種が続けられるが、国内の接種率が伸び悩んでいる。継続的に事業として採算性を確保できるような体制整備が求められよう。

 今後もウイルスの変異や新たな感染症流行が繰り返されるとみられる。感染拡大を防ぎ、社会経済活動を維持するための国策として、系統的な研究・開発の積み上げと、国際連携を含めた生産・供給体制づくりを続ける必要がある。

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